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誰がために  作者: 旭ビール
6/8

6話

 取調室から出ると、先程上条と呼ばれた男子が寄ってくる。

「夜明、何かあったのか……?」

「んー、大丈夫。っていうか様子見」

 ぴしゃりと告げた夜明にはらはらとした様子の男子だが、直也を見て首を傾げた。

「……編入生がどうしてここにいるのだよ?」

「ついでかな。吉原部長に橘君を会わせたくて」

「クッキング部繋がりか。俺は上条真太郎。風紀委員会の役員をしている」

 彼が夜明の言っていた「仲のいい知り合い」らしい。名乗りつつ部屋を見回す。佐々木が糸目のままのんびりと自分のデスクに戻り、直也に何かを投げてきた。ボイスレコーダーだ。

「ないんやったら、これ使い。充電の持ちもええし。あとは……そういえば橘君クッキング部入るんか?」

「見学させていただく予定なので、それから考える予定です」

「ほん……空手部の部長から勧誘しといてーって頼まれとったんやけど。前の中学ではエエ成績やったて聞いてるで?」

「……すみません、さすがに自炊の身では両立できるか不安なので」

「せやろな。まぁ伝えとくわ。もし余裕ができたらよろしゅう。

上条、さっき出してくれた報告書で質問ええか?」

 にへら、と笑い手を振られる。上条からも引き離してくれた、教室に戻れということなのだろう。

 ありがたく退室する。


 時刻を見れば、朝のホームルームの時間はとっくに過ぎていた。

「ま、先生は俺達が佐々木先輩に連行されてたの知ってるし、その前に学校来てたのも知ってるし。大丈夫でしょ」

 夜明はあっさりと告げる。戻ろうかと促され、夜明の背中を追った、その時。

「……夜明」

 そもそも、学園は門と道を挟んだ向かいにコンビニが隣接されており、また校舎は旧校舎と新校舎に分かれている。その旧校舎の構造として、コンビニに向かって「コ」の形に突き出るように作られている。そして、風紀室や職員室、あとは生徒会室などもこの突き出た空間の内側に配置されていた。ちなみに二階である。

 そして、直也と夜明はその風紀室から出てきたのだ。

直也は何気なしに、向かいの青い屋根のコンビニを見た。

 見てしまった。


 夜明をストーキングしていた男が、コンビニの前で立ち、こちらを見上げている姿を。

 その目は暗く、澱み、直也と目が合った瞬間さらに憎悪らしき色が見えた。口元は歪み、さらに睨めつけてくる。

 それは直也の背中に、季節外れの汗をもたらした。

 夜明が直也の声に、振り返る。

「どうかしたの?」

「……いや、何でもない」

 あれを見せてはならない。直也はそう直感し、すまなかったと夜明背中を押した。


 そして、彼は更に見た。

 教室に向かおうと促し、その進行方向を見る。

 その先は、新校舎へと繋がる渡り廊下があった。

 渡り廊下に男性が立っていた。春にしては薄い甚平を着こなした男性は、直也達を見て、手に持った葉巻の煙を燻らせた。

 彼の口が動く。

『き を つ け ろ』

 そして背を向けた彼は、姿を薄め、やがて消えてしまった。

「……おいおいおい」

「さっきからどうしたの真白君」

 夜明は甚平の男性に気付かなかったらしい。

 何でもないと再度誤魔化し、直也はこれ以上何も見ないために教室へ急いだ。

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