6話
取調室から出ると、先程上条と呼ばれた男子が寄ってくる。
「夜明、何かあったのか……?」
「んー、大丈夫。っていうか様子見」
ぴしゃりと告げた夜明にはらはらとした様子の男子だが、直也を見て首を傾げた。
「……編入生がどうしてここにいるのだよ?」
「ついでかな。吉原部長に橘君を会わせたくて」
「クッキング部繋がりか。俺は上条真太郎。風紀委員会の役員をしている」
彼が夜明の言っていた「仲のいい知り合い」らしい。名乗りつつ部屋を見回す。佐々木が糸目のままのんびりと自分のデスクに戻り、直也に何かを投げてきた。ボイスレコーダーだ。
「ないんやったら、これ使い。充電の持ちもええし。あとは……そういえば橘君クッキング部入るんか?」
「見学させていただく予定なので、それから考える予定です」
「ほん……空手部の部長から勧誘しといてーって頼まれとったんやけど。前の中学ではエエ成績やったて聞いてるで?」
「……すみません、さすがに自炊の身では両立できるか不安なので」
「せやろな。まぁ伝えとくわ。もし余裕ができたらよろしゅう。
上条、さっき出してくれた報告書で質問ええか?」
にへら、と笑い手を振られる。上条からも引き離してくれた、教室に戻れということなのだろう。
ありがたく退室する。
時刻を見れば、朝のホームルームの時間はとっくに過ぎていた。
「ま、先生は俺達が佐々木先輩に連行されてたの知ってるし、その前に学校来てたのも知ってるし。大丈夫でしょ」
夜明はあっさりと告げる。戻ろうかと促され、夜明の背中を追った、その時。
「……夜明」
そもそも、学園は門と道を挟んだ向かいにコンビニが隣接されており、また校舎は旧校舎と新校舎に分かれている。その旧校舎の構造として、コンビニに向かって「コ」の形に突き出るように作られている。そして、風紀室や職員室、あとは生徒会室などもこの突き出た空間の内側に配置されていた。ちなみに二階である。
そして、直也と夜明はその風紀室から出てきたのだ。
直也は何気なしに、向かいの青い屋根のコンビニを見た。
見てしまった。
夜明をストーキングしていた男が、コンビニの前で立ち、こちらを見上げている姿を。
その目は暗く、澱み、直也と目が合った瞬間さらに憎悪らしき色が見えた。口元は歪み、さらに睨めつけてくる。
それは直也の背中に、季節外れの汗をもたらした。
夜明が直也の声に、振り返る。
「どうかしたの?」
「……いや、何でもない」
あれを見せてはならない。直也はそう直感し、すまなかったと夜明背中を押した。
そして、彼は更に見た。
教室に向かおうと促し、その進行方向を見る。
その先は、新校舎へと繋がる渡り廊下があった。
渡り廊下に男性が立っていた。春にしては薄い甚平を着こなした男性は、直也達を見て、手に持った葉巻の煙を燻らせた。
彼の口が動く。
『き を つ け ろ』
そして背を向けた彼は、姿を薄め、やがて消えてしまった。
「……おいおいおい」
「さっきからどうしたの真白君」
夜明は甚平の男性に気付かなかったらしい。
何でもないと再度誤魔化し、直也はこれ以上何も見ないために教室へ急いだ。