5話
丸め込まれて風紀室に連れていかれる。その道すがら担任に会ったので助けてもらえるかと期待したが、佐々木の「借りますわ」であっさりと流された。はくじょうもの、と夜明が小さく呟く。
風紀室の中は整頓されており、職員室のようにテーブルがあわせられている。ここが委員スペースなのだろう。奥に部屋があり、また手前にも部屋に繋がる扉がある。
そして、テーブルで書類を読んでいたと思しき男子が、夜明を見て顔色を変えた。
「夜明!?何かあったのか?」
「それを今から聞くんや。ほれ、上条は早う書類確認して印押しや」
佐々木が彼を元の席に座らせ、手前の扉を引いた。
「風紀委員お手製取調室。防音効果もバッチリやで!」
まったくもって嬉しくない。
部屋に入ると、佐々木はパイプ椅子に真白達を促した。
「座ってゆっくりしとき。お茶入れてくるわ」
佐々木は颯爽と外に出ていった。
「……悪い、まさか気付かれると思っていなかった」
「俺こそごめん、先輩と目が合った瞬間嫌な予感しかしなかったけどまさか当てられるとは……」
扉が開く。戻ってきた佐々木は、せやな、と言いながら湯呑みを二人の前に置いた。
「夜明君の口元がこわばった時に確信したな。あとは……橘君がチラッて夜明君見とったやろ。夜明君、何や巻き込まれてとるんか」
見事である。悠々と佐々木が鍵を締め席につく間に、観念したのか、夜明が額を抑えた。
「……はい。ただ、俺の知り合いには迷惑かけたくないんでできたら秘密にしてほしいといいますか」
「お嬢には言わせてもらうで」
「ですよねー……」
お嬢とは誰だろうか、と直也が首を傾げていると、佐々木が気付いて説明をつけたした。
「お嬢は……なんや、俺の飼い主みたいなもんやな」
「飼い主……!?」
「ガキん頃に拾われてな。色々世話してもろたんや。正直生きていくんすら大変やったからな、ホンマ感謝してる」
恩人のことをお嬢と呼んでいるらしい。頷いた直也をよそに、佐々木は話を続けた。
「まぁ僕から周りに広げるような真似はせんよ。お嬢にもそこは通しておくわ。
ただ、何や……話すだけでも気分て軽うなるもんやからな。良かったら話してくれへんか」
夜明は口を開いた。
話を聞いて、佐々木は腕を組み唸った。
「……警察には言わんで正解やで。あいつらは実害出るまで何もできへんから。で、どうするか……せやな、迂闊に接触してエスカレートされるんが一番嫌なパターンや。できたら警告して終わらせるんがベターなんやろうけど。
せや、空野先生には相談したんか?」
「いえ……」
「知り合いに知られたくないて、言うてるくらいやしな。
ま、最悪そいつ捕まえてコンクリつけて沈めたるから、我慢できんようなったら言いにおいでや」
「……ありがとうございます」
「あとは、日記つけとき。被害状況確認する時に証拠として使えるから。言葉で書くんが嫌ならボイレコでもええで。
風紀が首突っ込むんも嫌なんやな?」
「……すみません」
「まぁ上条おるしな。あいつホンマ過保護やからなぁ……」
しみじみと唸る佐々木。先程の上条の血相の変え方からして、過保護なのは納得できる。あとはコンクリだの不穏な言葉も出てきたが、今更掘り返すのも野暮だろう。
「せやな。今できることは、そんくらいか。
できる限り橘君と行動するようにした方がええ。橘君、中学では武道やってたんやろ。守ったってくれへんか」
「はい」
「助かるわ。ありがとうな。
あとは……一度僕もそいつの顔だけ確認しておきたいな。今日やと橘君現れて警戒してるかもやから、また別ん時に気配消して見ておくわ。あと、その朝に来たて言う気持ちの悪い写真、証拠になるから保存しておきたいんやけど……嫌やんな?こっちで預かっとくわ。
二日間とはいえ、よう一人で耐えたな」
わしわしと夜明の頭をなでた佐々木は、さてと立ち上がった。
「授業始まるし、そろそろ戻りーな」
「…………はい」