2話
(どうやってスペース入れるんですっけ……しばらく奮闘してみます)
夜明と並んで歩く。
男性の視線はまだ背中から突き刺さる。直也に対してやや悪意を感じるそれに眉を潜めていると、夜明が「あー、」と切り出した。
「……見た?」
見た、とはストーカーのことだろう。
「見た。……誰かに相談はしてないのか?」
「うん。気付いて三日目だし、あまり事を荒立てたくもないからさ」
「せめて親御さんには言った方がいいんじゃないか?」
「俺ん家、いないんだよ」
さらりと告げられ、詰まる。嫌な雰囲気になりそうだと感じたか、夜明は言葉を付け足した。
「今は大輝や大河の家族と良太の親父さんに面倒見てもらってる」
「………………」
(誰だ)
さっぱり分からない。恐らくは学園の人物なのだろうとやや自分を納得させていると、夜明も直也が学園に来て数日だと言う事を思い出したらしくゴメンと手を合わせた。
「中平大輝と中平大河。それと、綾瀬良太。幼馴染なんだ。同じ学年だよ。大輝はB組、大河と良太はC組だけど」
「そうなのか」
直也と夜明はA組である。人物の名前は分かったが、自分のクラスさえ中途半端な把握具合なのに他クラスまで把握しているわけがない。名前だけ覚えておこうと内心決めていると、夜明が苦笑した。
「大輝と良太はとにかくデカいから目立つしわかりやすいと思うよ。特に良太は、読者モデル?やってるくらいだしイケメンだから尚更目立つ。大河は……そういえばこの間茶髪に染めて先生に怯えられてたなぁ」
「……あれか?ヤンキーというやつか?」
「大河は全く。ヤンキーなのはむしろ……まあいいか」
とても不穏な言葉が聞こえたが、話を流された以上は追及しづらい。
通学路を歩く。歩道の脇に桜が並び、その花をひらひらと纏わせて立っている。
「そういえば、橘君って部活は?」
「入ってない」
というか、入りづらい。編入でどうすればいいのか、かつ皆中等部からなのに高等部から飛び込んでもいいものか。その二つが重荷となっていた。
気付いたのか、夜明が苦笑する。
「……中学生時代は何部にいたの?」
「空手部に。あとは柔道部の人数合わせに」
「強いね!?」
一応どちらも全国まで行った腕前だ。
だが、この学園ではどちらに入るつもりもなかった。
「ただ、学園では……クッキング部に入りたいと思っている」
「料理男子?」
「あれか、家事ができる男子はモテるとかいうあれか。それもなくはないが…………一人暮らしをすることになってな。自炊の手間が省けるんじゃないかと。腕前も向上するしな」
料理部の活動を調べたところ、どうやら週一日で料理を作っているという。その日の部員の要望で決まるため、自炊にしても良さそうだなという狙いだ。もちろん食材費は部費から出る。最高である。
夜明はおお、と声を上げ、それならと笑った。
「俺、クッキング部だから部長に声かけておこうか?」
「いいのか!?」
「俺も一人暮らししてるから、他人事じゃない感じがしてさ。いいよいいよ」
「ありがとう、恩に着る」
「そんなに堅苦しくなくていいよ」
にこりと笑った夜明と共に、校門をくぐった。
感じていた視線が逸れる。どうやら学園の中までは入ってこないらしい。来れば不審者としてとっ捕まえるつもりだっただけに、残念だ。
下駄箱で靴を履き替えながら、それにと夜明が小声で告げてきた。
「俺こそありがとうね。一緒に来てくれて」
「別に。同じ道だからな」
誤魔化した直也に、夜明はふふふと笑った。