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蒼天の詩  作者: SR9
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#3 初めての戦い(1)


「歓迎するって…言われても……」


全てが急すぎて,渚の頭はもう理解を諦めていた。

とりあえず今分かっている事は,2つだ。


1つ,ここはどうやら自分がいた世界とは違う世界だという事。

2つ,ナギと名乗ったこのロボットは,どうやら自分の味方らしいという事。


これ以上の情報を渚は持っていない。

今はただ,現状に流されているだけだった。


「これじゃ分かんないよ。一体どうなって――」

『ちょっと待って! 後ろから次が来る!』


渚の質問は,ナギの鋭い声に止められる。

慌てて振り返ると,遠くに黒い点が3つ見えた。


『拡大するからよく見ておいて。あれが,私たちの敵よ』


ナギの言葉と同時に,黒い点の横に四角いモニターが現れる。

そのモニターの中には,3つの黒い点が拡大されて映っていた。

そこにいたのは,亀の形をしたロボット。ナギとは正反対の真っ黒な体。目と甲羅の模様部分だけが血のように赤く輝いている。3体横並びで飛んでくるそれは,ゲームで言えばただの雑魚キャラなのだろうが,渚の目には恐ろしい怪物に見える。


「あっ…」


でも,モニターを良く見ていて気付いた。

あの亀はとても遅い。

今こうしている間にも,お互いの距離がどんどん離れているのがモニターを見て分かる。

これなら追いつかれる事は無い,と安堵してシートに深く座り込もうとする渚だったが,再びナギの鋭い声がとぶ。


『気を抜かないで! まだ来る!!』

「えっ? きゃぁッ?!」

『馬鹿! よく見なさい!』


ナギの怒声と共に、シートががたがたと揺れる。

慌てて後ろを見ると、先ほどの亀形ロボットが同じように遠ざかっている。


――いや、違う。


四角モニターが更に拡大映像になり、渚は息を飲む。

先ほどのような亀のシルエットががらりと変わっている。

特に目立つ変化は、背中の甲羅だ。真ん中から左右二つに割れ、その奥から巨大な砲身が顔を出している。


「まさか…」


見た瞬間、嫌な予感が頭を埋め尽くす。

そしてそれを証明するかのように、それぞれの砲身が光った。


『しっかり捕まってなさい!』


 ナギに言われて咄嗟にレバーを握るが間に合わない。

 すぐに衝撃と轟音がコクピットシートを襲う。

右のパネルが激しく明滅し、アラート音が響く。


「こ、これ大丈夫なの……?」

『右足と左腕に直撃ね。でも安心なさい、この距離ならダメージはほとんど無いわ。 …けど、この状況はあまりよろしくないわね……』

「そんな…」

『見る限り、今追ってきてるのはあの3体だけね。 ……ならここで落とす!』


威勢よく啖呵を切り、ナギが振り返る。

だが、正面に敵を捉えた瞬間、亀の砲台から何かが発射された。


「また砲撃?!」

『いや……違う!』


瞬時にフォーカスが動き、発射された物体を捕捉する。

それはただの砲弾ではなかった。


『あれは…』


こちらに向かって飛来しながら、砲弾が展開する。

ただの円柱からまず飛び出すのは小さな四肢と、丸い尻尾。

続いて頭部、そして、その後ろから伸びるのは大きな耳。

その姿は、まるで…


「う、うさぎ……?」

『そう…あれがチーム「うさぎと亀」の本領。ホントはあれが出てくる前に終わらせときたかったんだけど…』

「ど,どどどうするの?!」

『もちろん、問題ないわよ。いくら増えた所でたかが6体。私たちの敵じゃないわ』


 慌てる渚と対照的に、ナギは落ち着いていた。

しかし、その間にも3体のうさぎはこちらの目前まで迫っている。

その上、後方から追いかけてくる亀からの砲撃も終わった訳ではない。



 ――だが,その現状を理解しながらも,ナギは笑う。勝ち誇ったように,にんまりと。


『…マスターを乗せた私を,今までと同じと思わない事ね!』


 うさぎは目の前で散開し,タイミングやポイントをずらして襲い掛かってくる。

 3体ばらばらの動きを,しかし,ナギは完璧に捉えていた。

 外から見れば,それはまるで流麗なダンスを見ているように巨大な鋼鉄の体が動く。

 3体の攻撃を軽々とかわすと,まっすぐに亀の元へ。


「うさぎはあのままで良いの?」

『どうせあいつらは突っ込んできて自爆するしか取り柄が無いのよ。あっちの方がやっかいだから,そっちから叩くわ』


 と,そこまで言ってナギはちらりとこちらを向く。

 その何かを値踏みするような視線に渚は首を傾げるが,そこで思いついたようににやりと笑ったナギに身を強張らせる。


『せっかくだから,ちょっと手伝ってくれる?』

「て,手伝うって…?」

『ちょっと両手出して』

「こ,こう……?」


 いつの間にかナギは完全にこちらを向いていた。

 にも関わらず,モニターは変わらず亀に向かっている所を見ると,目の前の少女の動きがそのまま巨大な体を動かしている訳ではないようだ。

 ならばどうやってこのロボットは動いているのだろうか…

 そんな小さな疑問を感じながら,渚は言われた通りにナギの方に両手を出す。

 すると,ナギの小さな手が渚の両手に乗せられる。


『両手に意識を集中して…』


 ナギに言われた通りに両手に意識を向ける。

 すると,両手が触れ合っている所からだんだんと光が広がっていく。


「ッ?!」

『動かないで! すぐ終わるわ』


 光が強くなっていくと同時に,自分の中の何かが持って行かれている妙な感覚を覚えた渚は思わず手を引きそうになるが,ナギに言われて寸前で思いとどまる。

 ぎゅっと目を瞑って,離れそうになる意識を必死で繋ぎ止めようとしていると,突然すっと体の感覚が全て消えた。


「え?」

『ん,終わったわよ』


 驚いて渚が目を開けると,自分の体に何事も無かったように感覚が戻る。

 両手を握ってみても,いつもと何も変わらない。

 

 だが,目の前にいるナギの方には明確な変化があった。

 深い青だったツインテールは,情熱的な赤に。上着にはそう大きな変化は無いものの,基調とする色が赤く変化。膝上だったミニスカートは膝下まで伸び,その後ろ側には大きなオレンジ色のリボンが煌めいている。


 実はこの時,コクピットシートにいた渚は気が付かなかったが,真白だった巨体にも変化があった。

 背中から伸びる羽の上2つだけが色を赤く変え,形状もより鋭利的な物に変わる。腕や体,足には所々赤いラインが入り,青く光っていたアイレンズも赤く変色していた。


「これって…」


 突然の変化に驚く渚の周りで,計器が一斉に表示を変えた。


『マスターリンク60%を維持,マスターコア正常稼働域で安定。Σドライブは……タイプαまで解放,と。初めてでここまで行けば上出来ね』


 それらの表示を確認しながらナギが口を開く。

 その言葉の意味を半分も理解できない渚は,ただ茫然とするしか出来なかった。


『さぁ,見せてあげるわ。マスターと一体になった私の力を!』




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