#0 プロローグ
――夢。夢を見ていた。
夢の中の私は、白い雲の切れ間から明るい太陽が覗く空を見上げながら、親友と二人、草原に寝転んで笑っている。
何を話していたかなんて全く覚えていないが、とても楽しそうに笑っている。
この幸せな時間が永遠に続かない事を知りながら、それでも、いや、だからこそ、その今を精一杯楽しんでいる。
そんな、夢を――
目が覚めると、そこはいつもと変わらぬ、蒼に包まれた世界だった。
昼も夜も無く、ずっと蒼い月が地上を照らしている世界。
夢と現実は、こんなにも違う。
分かりきっている事なのに、それを理解するたびに自然とため息がこぼれる。
――しかし、今回は違う。
ゆっくりと、しかし確実に『彼女』が歩きだした。
その歩みの先に何が待ち受けているのか、その答えはまだ分からない。
だが、その答えが幸福であれ絶望であれ、一度動き始めてしまった歯車を止める事は誰にも出来ない。
私は『彼女』が来るまでもう少し夢を見よう。
これから始まる物語を前に、もう少しだけ、幸せな時間を夢見よう。
これから先、何があっても強くいられるように。
どんな悲しみにも、負けないように――