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第一章

春というにはまだ早い。少し肌寒い季節に私は彼に恋をしました。



入学してから2日目。もちろん私はまだ全員の名前を覚えていない。


私…斎藤優は高校生になり、今とても楽しくない日々を送っている。


なぜなら、今のクラスに3年2組の女子は私一人だから。



「セカンドスクールの実行委員、男女一人ずつ。誰か立候補してくれないかー?」


朝のホームルーム中。担任の武部が大きな声で叫んでいる。優は面倒くさそうに目を背け、顔を伏せた。


「はい!はい!俺、やりたい!」


イキナリ、大きな声で立ち上がり…手を挙げる一人の男子。


「おっ、浅野!よく言った!!」


また…あの子だ。


入学式からやたらウルサイ奴。

優は呆れた顔で彼を眺めていた。


周りの男子達は彼のテンションに押され…賑やかに騒ぎだす。


「よしっ男子は決まった。次、女子。誰かやりたい人いるかー?」


立候補してくれた人がいて、嬉しかったのだろうか?

武部は満面の笑みで女子に話掛ける。


普通に考えてしたい人とか…居るわけ無いじゃん。


優は、机にもたれた。


女子達は、武部の視界に入らぬよう…下を向いて座っている。


「…しょうがないなぁ。。じゃあポイント絞るか。」


痺れを切らし、武部は溜め息をついた。


「…えーと、じゃあ、東中・西中・南中・北中の中で…東中!東中だった女子、手を挙げて!!」


…はぁ!?本気で言ってんの!?


突然の言葉に、優は机から顔を上げた。


そして恐る恐る手を挙げる。


武部の提案に、生徒達は賑わっていく。


…優を含めた3つの手のひらは、目立たぬよう、ひっそりと挙げられていた。


「じゃあ、3年2組だった子。立って!」

はぁ!?


優は目の前が真っ暗になった。


…面倒くさい事はしない主義なのに。


重たい腰をゆっくりと動かし、立ち上がる。

一斉に、周囲の視線が彼女に向けられた。「お!じゃあ‥斎藤に決定。今日の放課後集会あるから。頼んだぞ!」


満足気に微笑んでくる武部。


…ついてない。今日の占い一位だったのに。。。


はぁ、中学校んときの友達とはクラスはぐれるし、面倒くさい実行委員までやらされるなんて、まじで最悪。 


優は眉間にシワを寄せて腰をおろした。




「まじで!?めっちゃ最悪じゃんっ」


昼休み、優はそそくさと教室をぬけだし…5組へと向かった。


5組には、中学校時代仲の 良かった守谷夏樹と須永玲が居る。


「他人事だと思って!」


実行委員を任されたことをケラケラと笑う2人に、優はふてくされた表情を見せた。


「で、友達はできたの?」


口を尖らす彼女に、玲は心配そうに声を掛けた。


「…2組だったアッちゃんと、一緒に行動してるけど」


優は、物足りなさそうに呟いた。


「だめじゃん、こっちばっかり来てたら」


夏樹は、呆れた顔で苦笑いをする。


「…だって」


キーンコーンカーンコーン‥


優の言葉を遮るように、チャイムの音が鳴り響く。


「ほら、5時間目始まるよ。ダッシュで戻りな」


そう言って、玲は彼女の背中をポンと叩いた。


「帰りには、迎えに行くから!」 


続けて、手をひらひらと振る夏樹。


捨てられた子犬のように、優は寂しそうに振り返りながら、ぽつりぽつりと重たい足を動かした。


…夏樹達はいいじゃん。


私だけ、クラス離れてるのに。


優は、半分スネた気持ちで1組に戻るのだった。


「浅野と一緒の実行委員とか、かなりいいじゃん!」


帰りのホームルーム中、前の席の麻美が話し掛けてきた。


「浅野?あぁ、あの子?」


“かなりいいじゃん”って言われても、別に格好良いわけでもないし。優は賑やかに騒いでいる彼をチラッと横目で見る。


「あぁ見えても、西中では人気あったんだよ!おもしろいし、可愛い系じゃん」


両腕を机の上に置いて、身を乗り出す彼女は、優の耳に囁いた。


「…ふぅーん」


可愛いって言うか、小さいだけじゃん。


優は“興味が無い”と言わんばかりに…無表情で答えた。




「斎藤、行こう!!」


ホームルームが終わると、浅野真心(まみ)は真っ先に駆け付けてきた。


…なんでそんな張り切ってんの?


優は“面倒くさい実行委員の仕事”を今すぐにでも放棄したい思いで、ダルそうに立ち上がる。


「俺さぁ、今日サッカー部入ろうと思ってたんだけど‥間に合うかなぁ」


独り言のように、隣でぼやく彼。


…ほんとに小さいなぁ、この子。


優は彼の姿を無言で見下ろしていた。



「斎藤って、3年のクラスから一人なの?」


張り切ってたわりには、真面目に話を聞くわけでもなく…彼は隣のクラスの男子や優に話し掛けてばかり。


「…うん」


気にしていることに触れられ、優は不機嫌な表情でそっけなく答える。


「いいなぁ、めっちゃラッキーじゃん!」


彼は椅子にもたれかかり、優に笑い掛けた。


…はぁ?


何こいつ、馬鹿にしてんの!?


彼の言葉に、優はムッとした。


「何がラッキーなの?」


そう言って彼を睨み付ける。


「え…だって知らない奴ばっかだと、新しいツレ増えるじゃん。違うクラスの人だとあんまり接点ないし」


馬鹿にしてるのか、それとも素で言っているのか?


どっちでもいいけど、彼のその時の言葉はあまりにもプラス思考すぎて…優は唖然とした。


「そっか…」


思わず彼の顔を見つめる。


「んじゃ、まずは握手」


屈託のない笑顔で、彼は右手を差し出してくる。


「え?」

突然、握手を求められ、優は意味がわからず戸惑った。


「今日から、俺ら友達な!」


そう言って彼はせかすように右手を揺らした。


「あぁ、うん」


今まで周りにいなかったタイプの彼に調子が狂ってしまう。

優は言われるまま右手を重ねた。


「俺、浅野真心!マミって呼んでなっ」


彼はニコッと微笑み、ぎゅっと手を握る。


「マミ?」


女の子みたいな名前に、優は興味を示した。


「うん。変わってんだろ。」


その時、優はふと気付いた。‥いつのまにか彼のペースに流されている。


入学してからの数日間、うちのクラスは真心を中心に回っていた。


でも、それは、彼がただ一人でうるさくしているからだと思っていた。


でも、そうじゃない。‥彼のもつ空気が、皆を明るくしている。


優は、麻美の言った言葉の意味を素直に受け入れる事ができた。





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