第四話
なんか違う。俺の知ってる流れと違う。
武は一人、小さくボヤいた。
光の先には自称女神がいた。
そして、客間に案内された。
この客間というのがよくわからない。いや、そもそも事務的過ぎる。この世界に来る人に会い、適応できるようにサポートするだけの場所との説明だったが、武の記憶ではこんな校長室のような部屋なんてなかった。さらに、別室では女神による一対一の面接が行われている。彼らに合わせた装備が与えられるというのだ。確かにあのときは武一人だけだったために違う対応をされているとも考えられるのだが、もっとアバウトだったはずだ。
だがそこは、とても清潔な室内だった。とても気持ちがいい。澄んだ空気にホコリひとつもない木製の床。そして、居心地の良いレザー生地のソファーが丸テーブルを囲むように四つ。一つに三人は座れそうな大きなソファーだが、勇人、裕也、綾瀬と武がそれぞれ占拠している。
現在はクリスの面接中だ。勇人、裕也、綾瀬は終わっていた。
片手剣と盾を与えられた勇人は銀色の鎧を着込んでおり、パッと見たところいかにも英雄に見える。片手剣にしても、柄も銀色で黄金のクリスタルが先端に装飾されて上品な印象だ。盾も統一されて銀色で、絶世の美男子がさらに輝いている。
また、両手剣を与えられた裕也は、盾こそないものの、両手剣の全長は二メートルほどもある長剣だった。こちらは対して装飾品は一切無く、シンプルな一本になっている。勇人と同じく鎧を装備していて、色は青で、勇人よりも攻撃的なフォルムだった。
二人ともイケメンで、とてもよく似合ってると武は感想を抱いている。
それから、綾瀬は白いローブに杖だった。ローブには魔術的な模様が金糸で縫われている。僧侶だな、というのが一目で分かる。ふんわりとした雰囲気と優しげな美少女にぴったりだ。
俺はどんな装備なんだろうと、武の胸のトキメキはうなぎ上りだ。
けれども部屋は無音だった。圧倒的展開に三人はついて行けず、武にいたっては実体化してしまったウィンを制服の中に隠してごまかすのに精一杯だったのだ。
そんな中、勇人がポツリとつぶやいた。
「魂が力強い、かぁ」
裕也も女神の話は疑問符だらけだった。
「だから身体も強くなるったってな」
綾瀬は髪を指でくるくるしていた。
「驚きましたねぇ」
「だねぇ」
「まったくだ」
「女神様が召喚したわけじゃないみたいですね」
「誰かわからないみたいだよ」
「少なくとも人間らしい」
「でも、そこにいる人たちみなさん魔法が使えるってすごいですね。私、回復ができるようになりました」
「ボクは雷だよ」
「俺は身体強化だけだ」
「みんな違うんですねぇ」
「翻訳というか、言葉がわかるようにしてもらったよ」
「それは俺もだ」
「私もです」
「あっ。その辺りはみんな同じなんだ」
「基本装備ってやつか」
「装備っていったら、私の……」
武を抜きに、会話が盛り上がっていく。
ヤバイ完全にボッチだ、と武が慌てふためいた。
(苦しい。せめて顔を出すぐらいはできんのか)
ウィンが学生服の上着の中で、愚痴をこぼしている。
思わぬ助け舟に、内心喜んで、けれどもぶっきらぼうに答えた。
(無理だって。イタチさんが服の中からこんにちはしてたら質問される)
(女神から貰ったとか言えばいいだろう)
(まだ面接してないっての)
(ぬぅ……。まさか実体化するとはのぅ……)
(しかしよく気付いたな。ファインプレーだ)
(我は自身を見るとき、普段は半透明に見えるのだ)
(へぇ。妖怪ってのは不思議だねぇ)
小声でウィンとさみしさからの雑談をしていると、
「次の方、どうぞ」
と、女神の呼ぶ声がした。
同時に、クリスが緑色の衣に弓を携えて歩いてきた。ハーフの顔立ちと女神からの装備でケミストリーが起き、エルフと言われても信じられるくらいのインパクトがある。
武の期待は、これでもかとはちきれんばかりだ。
俺はどんな装備になるのだろうかと、背後から聞こえる楽しげな様子に胸を膨らませ、武はウィンを隠すように前かがみで女神の元へ向かっていった。