第六話
作戦開始日。
魔王軍への総攻撃の中、遊軍を指揮するゾンローは、前線で戦うヨミウルシャイアンツ軍を眺めてここは大丈夫だと判断した。なんといっても、層の厚さが桁違いだ。一人ひとりが一騎当千。かつ、誰かが倒れてもまた新たに出てくる増援の力強さといったら頼もしい。唯一、欠点があるとすれば、『キャプテンアベジン』の代わりが誰もいないことぐらいだろうか。
しかし、アベジンといえば人間側の大英雄。その剣戟の筋は素晴らしく、馬上からクルボーやノコノゴたちを一瞬で葬り去っている。また、指揮能力もずば抜けており、巧みに兵を動かし、相手の裏をかいて攻めていた。縦横無尽に駆け巡るシャイアンツ軍。圧倒的な火力を誇る、人類最強の軍であった。
アベジンが持つ二つの太刀がキラリと光る。
サダハルとシゲオ。先代の勇者から『名付け』された、最高の二振り。その上、ヒデキと呼ばれる豪胆な馬との連携はまさに人馬一体。クルボーの攻撃をヒデキがかわし、すれ違い様にサダハルとシゲオが一筋の線を描く。アベジンの道には鮮血が飛び、攻略は困難と言われたハネクルボーやパタバタでさえ相手にならない。宙を浮く敵を目掛けてヒデキが「ヒヒンッ」と嘶いて飛び、驚くハネクルボーにサダハルが鋭く真っ二つに切り裂いた。着地時にはシゲオが華麗にハネクルボーの翼を斬り付け、返す刃で絶命させた。
そんなアベジンの前に、魔法の杖を構えた子クッパが二匹立ちはだかる。ゾンローは知っていた。ルドウィックとローイだ。ゾンローやヴァミほどではないにしろ、ハネクルボーやパタバタとは比べ物にならない強さを持っている貴族階級の亀の魔族だ。
ゾンローの頭に援軍が必要かもしれないとの考えがよぎった。
しかし、最高の装備を整えたアベジンに死角はなかった。ヒデキがローイを蹴散らし、サダハルとシゲオがルドウィックを瞬時に突き刺す。そして、ヒデキは全体重を前足に乗せて泣き叫ぶローイの甲羅を踏み砕いた。鬼の所業である。部隊長を殺された部隊は散り散りに乱れていく。そして、アベジンの指揮するヨミウルシャイアンツ軍はまた新たな得物を目掛けて突撃していくのだ。
アベジンが叫んだ。
「ヨミウルシャイアンツ軍は永遠に不滅だッ!」
「おうッ!」
「進めぇ! マジック点灯まであと少しだッ!」
「おうッ!!」
「ぶっちぎりで走るぞ!」
「おおおッ!!!」
周囲の兵士たちが呼応した。
今期のスローガンは『雄志』らしい。
騎士として雄々しく、高い志を持って戦いに臨むという強い騎士道を託されたヨミウルシャイアンツ軍の意思を尊重するかのごとく、アベジンは声高らかに指揮し、誇り高く振舞っていた。磐石の布陣に、ゾンローは頷いた。
やはりここは危なげない。
6つの軍のうち、最高レベルの装備に最高レベルの能力。戦力が飛びぬけている。
ゾンローは視線を移した。
しかしそこは緊急性に孕んでいた。
シャイアンツとは対照的に、兵士はボロボロに傷つき、幾人も倒れているのだ。
どこだっ!?
どの軍だっ!?
ゾンローは驚き、必死に駆けた。
援護をするためだ。
近づくにつれて、だんだんと状況が把握できてきた。
ヤ戦病院。
ヤグルドズワローズ軍だった。
「く……っ! まだだ! まだ終わりじゃない! 踏ん張れ! 俺たちの意地を見せるんだっ!」
孤軍奮闘の若い騎士が声を張り上げた。
ライアンオカワだ。
オカワは兵士を叱咤した。
「俺たちの新しいスローガンはなんだ!? 『這い上がれ』だ! そうだ! ここからだ! 戦いはこれからなんだ! まだ俺たちは終わってはいないっ!」
間に合うか!?
ゾンローは歯噛みした。
現在、もっとも速いハーピィ族は別部隊として他軍をサポートしているはずだ。だが、人間たちを率いる自軍の行軍スピードはそれほど速くはなかった。通常ならばこの速度でも問題ないのだが、ヤグルドズワローズ軍がここまでけが人が続出するとは誰も想像ができなかったのだ。
焦るゾンロー。
しかし、戦況は全く予想だにしない展開を向かえた。
義賊の乱入である。
一人活躍するオカワに気色が浮かんだ。
「パレンディンっ!? キャンプに間に合ったのか!?」
「任せろ。俺を誰だと思っている。ホンルイダオウだぞ? 失態は、プレーで返す」
「それにポリスをそんなに引き連れて……!」
「心強い援軍だ。見ろ。俺のことをよく知るサイバンカンだって連れてきた。これでこの戦いも勝てるぞ!」
「おおぉぉッ」
英雄の帰還に、兵士たちが盛り上がる。
パレンディンが吼えた。
「行くぞぉぉ! 狙うは勝利! ただ一つ!」
「オオッ!」
「ともにユニフォームを着れる喜びを分かち合い、突き進むぞォッ!」
「お、おおぉ!?」
「盛り塩だって用意してきた! 大丈夫だ! 混戦に持ち込めばイケルぞ!」
「おおおッ!!!」
このままでは危ない!
ゾンローは一生懸命、行軍指揮をした。
ヤグルドズワローズ軍を援護するために!
「行くぞ! 我ら義勇軍の力を見せるときが来た!」
「おおっ!」
「突撃ぃぃッ!」
砂塵舞い、義勇軍の持つ鈍器がきらめいた。




