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仮面☆戦士 カエンダー!  作者: アキ
魔王、カエンダー!
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第三章 第一話

 

 女神は最近ひどい偏頭痛に襲われていた。

 いつだったか、武が校長室と評価した一室。そこで、彼女はソファーに深く深く身体を預けている。丸テーブルの上では精神安定剤が散乱し、床には呪いの言葉が書き綴られたA4紙が散りばめられていた。長い、長い苦悩の末、とりあえず、と彼女は日常生活に欠かせない大事な錠剤を服用した。

 この薬は想像以上に偏頭痛から身を守ってくれて、こうした知識を流してくれた点に関してだけは武に感謝している。この三環系抗うつ剤に含まれる成分は気分をいくらか楽にしてくれるし、むしろノルアドレナリンを増幅させる効果から活動意欲が高まってくる。一度服用してしまえば、なぜ、今まで手に取らなかったのかが不思議でたまらなかったほどだ。本当、今までの苦労とは一体なんだったのだろうか。地べたに転がりまわって悪心や嘔吐、偏頭痛の末に大学ノート丸々呪いの言葉で黒く塗りつぶしていた過去を思い出すと、身震いしてしまう。

 身震いといえば、世界は、当初の予定よりも大幅に難航し、修正不可能な方向に突き進んでいた。神よと助けを求められようとも、そう簡単には介入できない。実際のところ、ただの管理者であり、システムの崩壊を防ぐだけの存在なのだから、彼らに任せることしかできないのだ。だいたい、全てを想像し、想定し、正しい方向へ導けというのが無理難題なのだ。神が万能でないからこそ、自由意志を持った、人間や魔族などが存在しているのだ。一々、全ての物事に指示を出してしまえば、神だとしても気が狂って自殺してしまうだろう。こんな症状に陥ってしまった現在、そうした理不尽によって破滅を招いてしまうという事象がひどく具体的に想像できてしまう。

 しかし、その結果、度肝を抜かれる事態に陥った。先代勇者の武が、新たなる魔王としてかの不死王ドラキュリアの領土に君臨してしまったのだ。もとより、武は世界に希望を与える勇者として、できるとは思ってもいなかった魔王ドラゴンの撃退までやってのけた真の勇者であった。今回の召喚にしたって巻き込まれているにも関わらず協力的であったし、「女神の半分の苦労を背負ってやるよ」、との力強い応援までもらっている。あの世界の混沌をよく知る人間としての意見だ。これには涙が出そうになった。私は一人で頑張っているわけじゃないんだ。女神は、先代勇者の心意気に胸を打たれたのであった。けれども、その彼が、ちゃぶ台を粉砕してしまった。目的そのものになってしまったのだ。

 これには飾られている食器を一つ残らず叩き割ってしまった。彼はどうして、こうも非常事態を好むのだろうか。心の底から殴りたくてたまらない。いや、確かに彼は真面目に、真剣に考えて、女神を、そして世界を、自身で救いたいと思って行動しているのかもしれない。それは、とても素晴らしいことだった。あれほどの思いやりそうそうできることではない。だが、彼の行動はあまりにも大風呂敷すぎた。このままでは、小さな小石すらも、大風呂敷を切り裂いてしまうだろう。どのように考えているのかは理解できないが、昔に比べて、はるかに決断力と物理的な行動能力をつけている。

 といっても、行動方法は勇人らとあまり変わりないはずだったのだ。彼らには等しく武開発の『風の馬』があった。彼らもそれを使いこなしていたし、女神自身も、さすがは勇者だなと驚いたものだった。二つの大きな車輪だけなので自ら立つことのできない、絶妙にバランスの悪い乗り物をいきなり目の前に提出されて、防具もなしに乗りこなせというのは無茶なことだ。ゆえに当分は、安全な旅になるだろうと予想されていた。移動距離が短く、ゆっくりな旅になると思われたからだ。けれども勇者たちは簡単に乗りこなして危険な旅へ体当たりしていき、武は、やはりというべきか予想の斜め上を選択し、羽もないのに高速で空を飛んで移動した。勇者一行は別にいい。基本的に無害だから。だが、武の行動を想定できなかった自身は腹立たしかった。

 女神は当時、胸が締め付けられてしまい、実際に心臓が痛くなるほどの不安で支配されてしまったが、もしかすると良き導きとなるかもしれないと、なんとか、なんとか改めた。人々の絶望から生まれた世界の崩壊を防ぐために派遣した、女神が厳選し、最も素晴らしいと思しき勇者たちなのだ。どのような情勢になろうとも、耐えて切り抜いていってくれるだろうと、そう、考えることにしたのだった。現実はそうではなかった。不死王は暴走し、あまりの暴行に、武の堪忍袋の緒が切れた。

 わが子を殺された勇者は怒り狂い、魔族、魔物、もろとも虐殺した。死屍累々。魔族たちは『カエンダー』の苛烈な行いに恐怖し、人間は『新たな魔王の出現』に恐慌状態に陥った。無慈悲に積み上げられる、武の子孫とその子たちを取り囲む人たちの亡骸に、女神自身、戦慄した。ここまでの状況にしてしまうと、武のさらなる逆鱗に触れてしまう。そうなってしまえば、魔族という知的生物はひとたまりも無い。皆殺しとなるかもしれないと頭を抱えたものだった。そして、やはり、勇者の背中を怨恨が押しまくった。その勢いに魔族は、いや、魔王すらも恐れ戦き、交戦は激化した。いつしか、人間の勇者の子どもはあの少女とシータしかいなくなり、魔族軍を指揮していた不死王は消滅してしまった。けれども、勇者の暴走は、止まらなかった。激昂した彼は、破壊衝動のままに、魔族を殺して歩いたのだ。魔族は、恐怖の名の下に服従を誓った。彼を主と崇め奉ることこそ、自身が生き残る最上の選択肢とばかりに。魔族の上に君臨する先代勇者。異常な状態であった。

 世界は急展開を強いられることになる。

 その上で、彼は『カエンダー』として、パタバタという亀に翼の生えた生物数匹とハネクルボーという茶色いキノコに翼の生えた生物数匹を引き連れ、わが子シータと妻ビューテ姫、親衛隊隊長プランコと、彼らのお世話係たちをヨゴバマから誘拐していったのだ。大胆不敵な、堂々とした城中での犯行である。城は混乱に満ちていた。

 女神は当時の報告書を読み上げた。

 そこには武と王との会話が記述されていた。


「ガハハハハ。ビューテ姫と子どもは頂いた。返して欲しければ、クッバじょ……、カエンダー城まで来いッ!」

「おのれ! やはり貴様は魔族であったか!」

「ガハハハハ。では、さらばっ」


 元ネタはわかっている。

 丸テーブルに置かれた別の資料を読めば、一目瞭然だからだ。


「マルオとルウィージに期待……、じゃなかった。ユウトやユウヤたちに期待するしかありませんね」


 女神は帰還のタイミングに悩みつつも、今回の召喚の主役たちに、希望を託したのであった。

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