表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面☆戦士 カエンダー!  作者: アキ
カエンダー 進軍!
39/49

第九話

 

「助かった」


 ゾンローがクリスに話しかけてきた。


「何がデスカ?」

「ヴァミのことだ」


 クリスは目の前で喧嘩をしている二人を眺めた。笑いあい、泣きながら、殴り合っている。避けようと思えば簡単に避けれる攻撃も、全てお互いが受け止めて。フェイントすればいいのに、一発一発、力を込めて全力で振るっている。痛いはずなのに、それでも我慢して。ガードしたいはずなのに、それでも防御せずに耐えて。嬉しそうに戦っている。

 クリスには理解できない。

 なんなの、アレ?

 はっきり言って、わけがわからナイ。

 痛いことシテ、でも笑ってル?

 二人がしていることは、戦闘でもなんでもない、ただの喧嘩だ。それも、子どものような喧嘩である。意味がわからなかった。戦う必要だってなかった。そのまま村を助けて終わりなはずだった。けれど、裕也は喧嘩を吹っかけ、ヴァミはそれに応えた。頭のネジが一本、抜けているように思えた。

 その上、ゾンローは弟のことで、助かった、と言う。なんのことやらさっぱりだ。


「どういうことデスカ?」

「ずっと落ち込んでいたからな。頼っていた兄上が殺されたんだ。それも、魔王にだ。それからグジグジグジグジ、なめくじ状態だった。見てられない、見てるコッチがイライラする。そんな状態だった」

「よく、スパイダーマンを倒せましたね」

「全部俺だよ。まぁ、だから感謝している。抱えていた怒りや悔しさ、悲しみを吐き出すことができるチャンスをくれたんだからな。しかし一対一での殴り合いとは。対等に渡り合ってるじゃないか。あの人間のあまりの成長ぶりは驚嘆に値する」

「ずっと、努力してましたから」

「ほぉ。その目、なるほどな。エルフと人間か。時代は変わっていくということか。人間の間では知らないが、魔族ではハーフは奇異に思われたり、生き物として扱われなかったりと、ひどい差別をされると聞いている。ヴァミの礼だ。俺たちは、そのようなことをしないことを誓おう」

「エルフではないデス」

「まぁ、隠そうと隠さまいと、俺にはどちらでもいい。誓ったという事実さえあればな」

「ク、クリスさん……」


 勇人だった。後ろには綾瀬やコルト、タンネ、サトシがいた。みんな、どうすれば良いのか判断に困っているようだった。


「ボクたち、どうしようか」

「そうネ。村人の手当てに行ったらいいワ。レティなんかもう行ってるワヨ」

「でも、裕也が……」

「裕也はワタシ一人で大丈夫。ダメなときと言ったら、魔王がここに攻めてくるときくらいヨ」

「アテにされても困るな」

「アテにしてるワ」

「全く……。まぁ、いいだろう。おい、勇者。約束しよう。ユウヤとクリスに危害は加えないと。また、敵がきたら守ってやると。だから行ってやれ。村人たちは村の中央の大きな広場にいる。俺もせっかく助けたんだ。無駄にして欲しくない」

「じゃ、じゃあ、行くよ?」

「エエ。行ってらっしゃイ」


 勇人たちはサトシの案内で、村の中央へと歩いていった。

 なんというカ……。

 戦ってるときは頼りになるのニ……。


「戦闘のときとは別人のようだな」

「ホント。顔はイイけど、普段はあんなカンジ。綾瀬もあれのどこがいいんダカ」

「面白いな。魔族も人間も。多面性がある」

「そうネ。それはワタシもそう思うワ」


 どうやら決着がついたようだ。

 先に裕也が倒れ、それからヴァミも力尽きたかのように大の字になった。地面に寝転がり、互いが見つめあい、互いが大笑いしている。呆れた。なんだそれは。青春ですか、友情ですか。昨日の敵は今日の友ですか。まるで少年漫画のようだ。


「力を使って、スッキリしたようだ。感謝する」

「裕也も、何かスッキリしたみたいデスカラ。こちらも感謝しマス」

「いい。しかし、人間か。変わらないのだな」

「そうですネ」


 裕也とヴァミが握手をしていた。絆が生まれたようだった。


「ところで、黒髪のハーピィというのはまさか、勇者の子どもでしょうカ?」

「おそらく、そうだろう。サイトウ・タケシへの借りを返しただけだと伝えると、嬉しそうに泣いていたからな」

「今は、カエンダーと名乗っていマス。それに、そのことは勇者たちの中でワタシしか辿り着いていない答えデス」


 最初は不思議だったけど、よく考えてみれば、不自然なところはたくさんあっタ。女神様とも親しかったし、クライスさんの態度も恭しかっタ。ビューテ姫の視線も凄かっタ。料理のことだったり、魔法のことだったり、剣のことだったり、いろいろ手馴れすぎていたしネ。前の勇者と考えたら、辻妻が合うことばかりダ。


「ほぉ。そういえば、カエンダーだったか。しかし、あのクレイジーな魔力量。明らかにあの勇者だ。体格が変わっているようだが、分かるやつには分かるぞ」

「でしょうネ。ですガ、それは内密にお願いできマスカ?」


 みんなに言っても信じないだろうし、本人も隠したがってるしネ。突拍子もない話だし、説明のしようもないのはわかるけれど、もう少しおとなしく行動して欲しかったナ。この世界の人とならまだしも、ハーピィとの子どもってのは正直引くワ。ありえナイ。何がどうなってそうなったことヤラ。だから名前を隠しているのかもしれないけど、チョットネ。


「いいだろう。二度と敵対したくないからな」

「ありがとうございマス」


 殴り合っていた二人はクタクタのようで、一歩も動かない。いいや、動けないのだろう。地面に座り込んでいる。これから救助もあるというのに、なんという体たらくであろうか。クリスまで笑顔になってしまった。

 雲の流れは想像以上で、太陽の光をすぐさま遮ってしまう。

 クリスは強い風の音に耳を澄ませた。

 暖かく、力強く、誇らしく。

 けれどもしばらくすると、クリスとゾンローの顔色が一変した。

 絶叫が混じり始めたのだ。

 それは段々と大きくなり、ついには正体が判明された。

 悲鳴の主は飛んできた生首だった。

 地面に転がる首。

 血と砂が入り混じり、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。

 しかし何より不気味なのは、未だに生きていることだった。


「助けてくれェッ! あ、悪魔が……、いや、勇者の子どもはどうなった!? 教えてくれぇぇぇッ!」


 クリスは嘔吐した。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ