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仮面☆戦士 カエンダー!  作者: アキ
カエンダー 進軍!
38/49

第八話

 

 裕也は見た。

 村に、いるはずのない人物を。


「お前は、……ヴァミ! どうしてここにッ!?」


 勇者パーティ、全員が戦闘体勢だ。

 忘れもしない、初日の衝撃。悔しくて、悔しくて。あれからずっと頭の中でも戦ってきた、緑色の鬼。旅で遭遇したどのモンスターやどの魔族よりも強かった。別格の、魔族。ヤツが、目の前にいた。そして、隣には青鬼も。

 あいつがいる。

 何度も夢に出てきた、あいつが。

 このときをずっと待ってたんだ。

 リベンジできる。

 このときを。

 裕也の身体が火照った。


「ちっ。よりにもよって、お前らか」

「ヴァミ、だから言っただろう。早く帰らないと面倒事になると」

「でも兄者、コイツぁ借りだ。あの勇者から命を拾った、その借りだ。返さねぇと夢見が悪い。兄者だってそう言ってたろ」

「それはそうだが」


 無視。

 この野郎!

 握る拳が震えた。


「おいっ! 聞いてるのかッ!?」

「聞いてるぞ。ここにいる理由か。魔王の命令で、勇者の子どもを殺すためだ」


 青鬼が淡々と答えた。

 確か、ゾンローという名前だった覚えがある。

 レティが叫んだ。


「では、シルク様はっ!」

「嬢ちゃんも子どもも無事だってオレ様は言ったろぉが。嬢ちゃんは今、ケガ人の手当てをしてるぜ。ったく、自分もケガしてるくせに、なにしてんだか」

「どういうことだ?」


 裕也の疑問は、パーティ全ての総意であった。

 ヴァミは面白くなさそうに続けた。


「あぁ? 魔族が人間を救護してんだよ。それも、魔族の嬢ちゃんもケガをしてるんだぜ? おかしいだろうが」


 裕也は噛み付いた。

 

「そこじゃねぇ」

「あぁ?」

「殺しにきたお前らが、どうして何もしない」

「したぜ」

「何をだ」

「胸糞わりぃ魔族ぶった馬鹿どもを、全員殺した」

「どういうことだ?」

「だから、殺したって言ったろぉが」

「はぁ? お前、脳みそ腐ってんのか? 説明しろって言ってんだよ」

「説明してるだろぉが!」

「説明になってないから言ってんだよ!」

「理解しろや、このボケッ!」

「んだとぉ!?」

「あぁ!? やんのかぁ、あぁ!?」

「ヴァミ、よせよ。今はそんな気分でもないくせに」

「裕也も、ちょっと冷静になろうヨ」

「兄者……」

「クリス、でもなぁ……」


 罵り合いは、しかしゾンローとクリスによって別のベクトルへと導かれた。


「では、聞きマス。まず、私はクリスといいます。あなたのお名前ハ、ゾンローさんだったと記憶しておりマスが、違いマスカ?」

「ゾンローだ。間違いない。お前は確か、勇者に味方するエルフだったな」

「違います。エルフではありまセン」

「そうか。まぁ、どちらでもいい。先の話だが、俺たちは魔族を殺した。同じく魔王ドラキュリアから命令を受けたやつらを」

「アイツら馬鹿ばっかりで」

「ヴァミ、俺が言うから黙ってろ」

「だってよぉ、兄者……」

「とにかくだな。村で、他のやつらの様子を見てたんだが、やつらはやり過ぎていた。あまりの無法ぶりに不愉快になってな」

「スパイダーマンもデスカ?」

「あの蜘蛛男のことを言っているのなら、そのとおりだ。俺たちは、戦う意思を持たないものや弱いものに攻撃するのは好かん」

「助かりまシタ」

「いや。元々、従う気のなかった命令だ。構わない」

「それでも、人が救われまシタ。ありがとうございマス」

「やめてくれ。くすぐったい」

「ところで、赤いお兄さんはどちらニ?」


 けれども。

 ゾンローとヴァミの顔が曇った。

 どこかおかしい。

 そのように裕也は思った。

 あのまとめ役がいないはずがないのに、姿も形もないのだ。その上、話をするのに躊躇っている気配すらある。さらに不穏な空気も感じる。裕也は警戒した。


「殺されたよ」

「エッ?」

「あのあと、魔王ドラキュリアにな。だから俺たちはこの作戦を機に、離れようと思ってるのさ。そしていつか、あの魔王を殺してやる」

「あぁ。そういうこった。だからもう、お前らとやり合うこともないってぇわけだ。……そんな気分でもねぇし」


 意気地のないヴァミを睨む。

 またか。

 またなのか。

 また見失うのか。

 俺の目標。

 追いつこうとしている背中。

 追い抜こうとしている憧れ。

 くそッ。

 いつもそうだ。

 いつもいつもいつも。

 勝手にどっかいきやがる。

 走っていると不意にいなくなりやがる。

 ちくしょう。

 ちくしょうっ。

 ちくしょうッ!

 だいたいなんだ。

 俺が目指した男のくせに。

 弱ったような顔をしやがって!

 アイツはそんな顔をしなかった。

 アイツは親に殴られてる話を笑い話にしてた。

 アイツは不倫や離婚のときだって笑ってたんだ!

 それがどうして……ッ!


「なんだよそれ。ふざけんなよ……ッ!」

「あぁ?」

「兄貴が殺された? それで俺と競うのを止める? ふざけんなッ」

「あぁ? 何がおかしいってぇんだよ」

「お前たちはいつもそうだ。ずっとそうだ。昔からそうだ。人がせっかく目標にして必死こいて努力してると、いきなり前触れもなく突然止めちまう。馬鹿にしてんのかッ!?」

「あぁ? 何を言ってんだ?」

「オレ様って言ってただろ。オレ様じゃないのかよッ!」

「それがどうした?」

「オレ様ならさ、もっと格好つけやがれよッ」

「あぁ?」

「このくそ野郎ッ!」


 瞬間、ヴァミの横顔を殴っていた。

 衝撃波が生まれるほどの、身体強化魔法を乗せた一撃。裕也が、一生懸命、ヴァミを倒すためだけに築き上げた最高傑作だ。

 吹き飛ばされるヴァミ。近づくも、いつまで経っても起き上がらない。

 さらに裕也は腹が立った。


「おいッ! 聞いてんのかァ!」

「ちょっと、どうしたんだよ、裕也」

「うるせぇッ! バスケだってそうだ! 俺は思いつくできるかぎりのことをしたさッ。またアイツとやるためにな。それがどうだ。まだ一度もリベンジできてねぇ。同じコートに立つことすらできてねぇ。舐めんな!」

「ちっ、くそっ。痛てぇじゃねぇか」

「オラ、立てよ。立ってこいよォッ。一対一だ。タイマンだ、コラァ! お前もオレ様なんだろッ!? ちゃんと格好付けろよ! いつまでも情けない顔してんなよッ! チャレンジャーから勝手に逃げんなッ!」

「くそっ。なんなんだよ」

「まだそんな顔をしやがって!」


 もう一発。

 起き上がろうとしたヴァミの顔に一撃を加えた。

 転がるヴァミに、言葉を乗せた。


「早く立てよ! 立ってこいよォ! 俺はまだ、一度もお前たちに勝ってねぇんだよッ! 小学生から何年間。毎日毎日毎日。朝昼晩! 走りまくってゲロ吐いてダンベル上げて筋肉痛になって。どれだけ努力してきたと思ってんだよッ!」


 さらに一発。

 今度は転がらない。

 怒りの形相が返ってきた。

 口元が思わず緩んだ。


「痛てぇじゃねぇかッ! あぁ!? 殺されてぇのか!?」

「舐めんなッ! 女々しい男に殺されるほど、弱くねぇ!」

「アッタマきた! お前、やってやろうじゃねぇか!」

「裕也だ! 腐った頭に叩き込んだらぁッ!」

「あぁ!? お前なんかの名前、覚えてやらねぇよ!」

「んだとぉ!?」


 魔法を掛けた右拳でボディを殴る。くの字に身体が曲がるも、ヴァミは見事に耐え、殴り返してきた。テンプルにクリーンヒット。今度は裕也が吹き飛ばされた。


「オラァッ! 喧嘩売ってきたくせに、もうダウンかぁ、あぁ!?」

「うるせぇ! お前はもう三度もダウンしてるだろうがッ!」


 すぐさま立ち上がり、ファイティングポーズを取る。

 重い一撃だった。

 やっぱり強ぇ。強ぇよ、コイツ。

 でも、前ほどじゃない。

 これなら余裕で耐えられる。

 口元を拭うと、手の甲に血がついている。

 おもしれぇ。

 夢にまで見ていた。

 再び、戦うことを。

 できるうちにやっとかないと。

 勝ち逃げされてしまう。

 負けたままは面白くねぇ。


「あぁ!? 二度だ! ダウンは二度だッ! 間違えんじゃねぇ!」

「あんなしょぼくれた顔、ダウンと同じだ」

「ユウヤ、歯ぁ、食いしばれよッ!」

「ヴァミもなぁ!」


 ド突き合いがはじまった。

 ヴァミがボディを打つ。けれども裕也はそれに耐え、拳を頬にヒットさせた。一瞬ヴァミはグラつくも、力強い右フックが飛んできた。まともに顔で受け止める。衝撃。歯を食いしばって我慢し、今度はショートアッパーを顎に叩き込んだ。揺れる足。だがものともせずに、ヴァミが、アッパーを返してくる。綺麗に決まった。裕也の足が浮いた。

 両者互いに全てが必殺のパワーを秘めている。しかし、二人はノーガードで笑った。

 そうだ、もっと来い。俺も行くからよ。もっと来い。

 左、右。裕也がフックを連打する。左右に弾き飛ぶヴァミの顔。だが、ヴァミの左ジャブ、右ストレートも決まった。ワン、ツー。今度は裕也の顔が後ろに飛んだ。

 二人は避けない。全てを受け止め合っている。拳と拳。けれども、想いは伝わる。


「脚にきてるじゃねぇか」

「お前こそ腰が入ってねぇぞ」

「ちっ、くそが。重てぇパンチしやがって」

「今度は勝ち逃げさせねぇ」


 青い獣が吼えた。

 緑色の鬼が、獰猛に同調した。

 そして、二頭は、堪り切った鬱憤を晴らした。





 


 




 

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