第二十七話
「それは俺の台詞だ」
武が援軍として駆けつけたときの戦況は芳しいものではなかった。プランコは倒れ、コルトは膝を付き、タンネは疲労で動けていない。勇者一行はまだ元気だが、それでも緑色の鬼に苦戦していた。戦場は魔族によって完全に支配されている。だからこそ、主導権を握るためにも奇襲した。炎でもって三本角の緑鬼を生焼け肉に仕立て上げたのだ。効果は抜群だった。魔族たちは混乱した。
魔族たちが攻撃元を探して空を見上げたとき、武は空を浮かんでいた。過去に戦った、魔王ドラゴンと同じように魔力を使って。この異常さに気付いたのは赤い鬼だけだった。緑色の鬼に向かって回復魔法をかけていたが、こちらを向くと武の圧倒的な武力に唖然としていた。
しかし、青い鬼は緑鬼の状態に我慢ならないらしい。武を前に抗議してきた。
「不意打ちとは卑怯な、……ッ!?」
青い鬼に攻撃の意思があると汲み取った武は、その意思をへし折ろうと風の魔法を行使する。無詠唱で行われたそれは、簡単にゾンローの右腕を切り落とした。突然の出来事にゾンローは痛みすら忘れてしまったのか、ポトリと落ちる自分の肉と自身の肩を何度も見比べた。そして、爆ぜた。
「ッぎゃあああぁぁぁぁァァァッ!!」
「ゾンローッ」
「兄者をよくもおぉぉ!」
「止めろ、ヴァミ!」
ゼブンの制止を振り切り、回復したヴァミが、棍棒を持ち、突進してきた。
殺してしまおうか。
武は考えた。しかし、『兄』という言葉が気になった。武にとって肉親や親族とは薄い関係でしかない。憎んでいるといってもいいほどだった。だが、『息子』を抱えることで、意識が少し変化したのだろうか。以前であれば三人もろとも焼死させていたのだが、ゾンロー、ヴァミともに殺さずにいる。自分の変化に戸惑いながらも、武は、ヴァミの片脚を切断することにした。
獰猛なる三本角を生やした緑色の鬼は、無様に転倒した。悲鳴を上げ、錯乱し、棍棒を振りながら泣いている。
威厳ある立派な一本角を生やした赤色の鬼の顔が引きつった。
綺麗な二本角を生やした青色の鬼は、残った腕で首を触っている。どうやら、首を刎ねられていたかもしれないという実力差に気付いたようで、青い顔がさらに真っ青になっていた。
悠々と、武は大地に降りる。
彼らにとっての『絶望』を宣告するかのように、黒色マントをなびかせながら、白い仮面に手を当て、ゆっくりと。
トン。
地に足が着く。ビクリとゼブンの肩が震えた。一挙手一投足に神経を尖らせているのだろう。血走った眼でこちらを凝視している。武は張り合いのなさを残念に思った。
「弱いな」
ポツリと。
「面白味に欠ける」
ゼブンは激昂した。
「貴様は弟たちを。弟たちをォォォォッ」
白い仮面はけらけら笑った。
「戦ってもいいが、その前に脚をくっつけてやったらどうだ。青いヤツの腕もだ。兄弟なんだろう? 綺麗に元通りにできるよう手加減してやったんだ。回復してくれないとな」
けれどもゼブンは、武の気まぐれに、何がなんだかわからなかった。何を言っているんだ、とばかりに武を怪訝な表情で伺っている。
白い仮面はマイペースに事を運ぼうとした。
「そうか。人手が足りないのか。綾瀬さん、アイツの腕、くっつけてくれる?」
「え……。あ……」
へたり込んでいた。さらに綾瀬は震えている。
プライドを刺激されたゼブンが声を張り上げた。
「長兄である私がするッ!」
「それは結構」
ゼブンは二人の回復に努めた。
しかし、何もせずに待っているのも暇なので、武は赤鬼と会話することにした。
「今、俺は機嫌がいい。運が良かったな」
「……貴様が勇者か。冷酷で残虐非道。噂通りだな」
遠くからでも歯軋りが聞こえてきそうな勢いだ。
「俺が噂の勇者なら、お前らみんな死んでるよ」
クククッ、と白い仮面は喉を鳴らした。
ひぃっ、と小さな悲鳴が聞こえた。魔族からか、人間からか。はたまた両方か。
「私たちは魔王ドラキュリア様の領内において最高位と並ぶ存在なのだぞ」
「それがどうした。この俺に指一本触れることができない弱者が」
「ッ……、何者だ?」
「仮面☆戦士、カエンダーだ。帰って伝えろ。強い人間と戦いたければここにいる、と。いつでも相手してやる。ホラ、とっとと帰んな」
ゼブンは唇をかんだ。
「二度と忘れぬ」
「楽しみにしておこう」
そうして、三人は去っていった。
残された者にあるのは武に対する混乱と恐怖だ。
プランコだけだ。目を合わせてくれたのは。
「俺は、一足先に帰るよ」
カエンダーは飛んだ。日常を背に、顔を仮面で隠して。
本当に、女神がくれたこの仮面は、本当に役に立つ。
武はそっと、息を吐いた。




