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仮面☆戦士 カエンダー!  作者: アキ
仮面☆戦士 カエンダー 誕生!
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第二十五話

 

 午前中、武親子と精霊ズで旧見張り台にいて、武が気付いたことがある。

 白い仮面はとても便利なことだ。

 爆笑も爆笑。シータのいい笑顔を見れたのだから、なんと便利な道具であろうか。どのように便利かというと、そう、必殺の『いないいない~、バァ!』に最適なのだ。不気味な白いマスクから現れる滑稽な変顔。キャッキャッ、キャッキャとシータの喜びようは凄まじいものがあった。ビューテも念願が叶ったとばかりに聖母のような微笑みを続け、旧見張り台での遊びの充実感は武をひどく高揚させた。

 しかしそれも最初だけだった。というのも、シータのお気に入りの遊びになってしまったために、アンコールの嵐を受け続け、要求に応えるたびに、次第にヘトヘトになってしまっていったからである。もう何回『いないいない~、バァ!』をしたかわからない。ずっと同じことの繰り返しだ。初めのうちは、いろんなパターンを作って努力してみた。顔を変化させたり、マントを使ったり、仮面のずらし方を工夫したりした。その辺りは楽しめた。だが、十回、二十回、三十回と繰り返されるうちに、そんな気の回しもできなくなってきたのだ。子守は大変なのだということが、痛烈に感じさせられた。

 父親って、難しい。

 入門も入門、ほんの最初の一歩目なのだが、武は子育ての大変さを身に染みてわかったような気になっていた。朝に続いての計算の甘さに、気楽に考えていた武のメンタルは少々傷ついた。格好をつけるも何も、『普通』であることがいかにすごいことか。これを続けてきたビューテはすごいと、武は尊敬の念を覚えた。

 また、ランチでも同じ食卓に並んだ。

 勇者一行として席に着いたために武とシータの位置は離れてしまったが、武はそれでも幸せだった。

 当然、もっと近くで見ていたかったが、それよりも朝錬のために共にできなかった分、新しいことの発見だらけで、武は驚いてばかりだった。

 まず、離乳していた。

 そして、器用に自分自身で食べ物を口へ運んでいたのだ。

 あんなに小さいのに!

 その上、シータはかわいい小さな手で先の丸いフォークを手に、おいしそうに武の嫌いなポルーテを食べていたのだ。なぜ、あんなにまずいものをと驚いていると、ビューテとプランコが笑いを堪えている気配が伝わってきたので慌ててポルーテを胃の中に押し込んだ。まずいものはまずいのだが、ここは親父の威厳というものを見せておいた方がいいだろう。けれども武がせっかく「おいしい、おいしい」と連発しているのに、裕也が不思議そうに「お前。これ朝あんまり好きじゃないって言わなかったっけ?」なんて空気の読まない発言するからたまったものではない。ビューテやプランコは肩を震わせて顔を背けるし、ウィンやエンも「好きなら」とばかりに悪ノリして武の皿に自分たちのポルーテを乗せるものだから、本当にたまったものではない。唯一、シータがたくさん食べた量に目を丸くしていたことが武の救いだった。

 マジで天使ちゃんだ。 

 お昼の後も、同じメンバーで旧見張り台へとやってきた。

 武は流石に疲れてしまい、気分転換に別の遊びをしようと提案した。どのような遊びがいいだろうかと考え、しりとり、あやとり、ジャンケンと思いつく限りの遊びを伝えた。シータはビューテの膝の上で、人差し指を口に当てたまま首を傾げていた。どんな遊びなのか、どんなルールなのか。理解したくないのか理解ができないのか。シータの出した結論は『いないいない~、バァ!』だった。武は泣きそうになった。

 しかし律儀に、真剣に、楽しく笑顔で繰り返した。ときには仮面をウィンに渡し、ウィンに同じコトをしてもらった。案外とこうしたことは苦にならないようで、デレデレで変顔をしていた。息子はやらんぞ、ウィン。さらにはエンにも渡り、『いないいない~、バァ!』のための仮面のリレーが行われた。ビューテから仮面は武に帰り、武のマントも使った大げさな変則必殺技に、シータは大喜びしてくれた。

 満たされた空間であった。

 日差しは肌を優しく温もりを与え、石床はひんやりとした気持ちの良い座り心地を提供してくれた。

 まるで失われた時間を取り戻そうとしているかのように。

 穏やかな、ゆるりとした時間であった。


「魔族が来たみたいだね」


 旧見張り台から外を眺めていたエンの一言を聞くまでは。

 武は尋ねた。


「知っているヤツか?」

「いいや。知らないタイプ」


 ビューテが強張っていた。母親の硬い表情に、シータの眉尻が下がった。


「エン、ウィン。二人を任せる」

「タケシ様。お一人で行かれるおつもりですか?」


 見つめてくる大きな瞳は濡れている。


「俺は何だ?」

「勇者様です」

「そう。勇者だ。それにな、父親なんだ」


 優しく。

 安心させるように。

 心に響くように。

 唇が動いた。


「そして。正義の味方。仮面☆戦士、カエンダーなんだよ」


 言って、武は白い仮面をセットした。


「シータを頼むよ、母さん」


 仮面はとっても便利だ。

 

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