第二十一話
「弱い。弱すぎるぞ人間どもよ」
「くっ……。命を刺し違えてでもタケシ様の城を守るッ」
訓練初日の昼過ぎ。
プランコたちは三人の魔族襲来という危機をむかえていた。三人とは言うものの、相手はコチラの戦力をなめきっており、一人しか戦いに参加していないのだが、今、目の前にいる魔族は魔王討伐時のパーティでないと対応できないほどの力の持ち主であった。
この力、タイトルホルダー級か。タケシ様ならばお一人で苦もなく相手をされるのだが……。せめて『エースマエノケン』や『キャプテンアベジン』の援護があればたとえメジャー(魔の国のこと。タイトルホルダー級などと一緒にタケシが名付けた)といえど……。くっ、油断していた!
旅に必要な技術を勇者たちに教えようと、プランコとコルトにタンネは武とウィン、エンを除く勇者一行と外壁の外まで出ていた。武たちには必要のないスキルなので、勇者たちにはプランコが「朝に教えました」と嘘を付いて納得してもらっている。しかしそれが仇となった。
結果は防戦一方だった。今はまだ浅い傷ばかりだが、コルトやタンネ、勇者一行をかばいながらの戦いは厳しいものとなっている。プランコはまだ動けることを知っていたが、それでもこの状況はジリ貧でしかなく、新たな傷ができていくばかりであった。
「クライス隊長、魔法で援護します」
「隊長! 僕もいるんです。挟み撃ちにしましょう」
タンネとコルトが参戦しようと身構える。だが、このレベルと戦うには圧倒的に技術が足りない。唱えたファイアボールはダメージを与えたかどうか怪しく、コルトの攻撃も歯が立たない。二人とも魔族と戦闘経験があるといっても、所詮は一般的なシングルA級としか戦ったことがないのだ。敵は魔族の中でも滅多に目撃されないタイトルホルダー級。相手にならない。
「魔王ドラゴンが勇者に倒されたと聞いて遊びに来てやったのだが、これでは面白味がない」
赤黒い肌に立派な一本角を生やした鬼がつまなそうにすると、
「大兄者、ここはオレ様に任せてくれ。この程度の人間ごとき、大兄者の出る幕じゃねぇ」
緑色の肌に獰猛な三本角を生やした鬼が血気盛んに前に出て、
「いいや兄上。俺にしといた方が懸命だぜ。隊長と呼ばれた男。どっかで見たことがある。あの男は危険だ」
青い肌に綺麗に整った二本角を生やした鬼が弟を手で制した。
すると大兄者と呼ばれた赤鬼は少し思案した後、緑鬼に指示をした。
「よし。ヴァミ、お前が行け」
「兄上!」
「へへへ。ありがとよ、大兄者。兄者、俺が行くぜ」
「ヴァミは経験させる必要がある」
「わかったよ、兄上」
しぶしぶといった具合に青鬼が承諾すると、今度は赤鬼が次なる指令を出した。
「まさか、あそこで怯えているやつらが勇者ではあるまい。身なりは良いが、戦士ではないようだ。ゾンローよ、勇者が出撃したときはお前に任せる」
「そういうことなら任せてくれ」
上機嫌になった青鬼を確認したのか、赤鬼が頷いた。
そして、満を持して、緑鬼が高らかに堂々と宣言した。
「またせたなぁ、人間。オレ様はヴァミ! 魔王ドラキュリア様が部下、そして魔界に名を轟かすゼブン大兄者の弟とはオレ様のことよぉっ!」
「僕はヨゴバマヘイズダースが一軍騎士コルト! 新たな勇者パーティの一員としてクライス隊長にスカウトされた者だッ!」
「同じく、ヨゴバマヘイズダースが一軍魔道士タンネ。コルトと共に、クライス隊長にスカウトされた者!」
魔王ドラキュリア、か。知らない名前だ。新しい魔王だろうか。しかし、それにしても名乗りとは久しい。いつからだろうか。互いに名乗りあい、自らを全力でぶつけ合う戦闘から遠ざかったのは。魔王ドラゴンとの大規模な戦争からだろうか。いいや。もっと以前。タケシ様と出会うよりも昔。騎士に憧れ、愚直に前を歩いていた、足元も見えていなかったあの頃だったか。
プランコが自身の軌跡をたどっていると、三人が、じっとコチラを覗き込んでいた。
これは、もしかして、いや、もしかしなくても名乗るのを待っているのだろうか?
困ってしまい、赤鬼に視線を移すと、苦笑していた。瞳が「すまないが、付き合ってやってくれ」と語りかけているようで、可笑しくなり、そして唐突に、ハッと武との会話を思いだした。
人も魔族も変わらない。ようやく、ようやくですが、私もあなた様のおっしゃっていたことが理解できる土台ができたのかもしれません。ですが、ここは戦場。戦わせていただきます。
プランコは深呼吸した。
「私はヨゴバマヘイズダースが親衛隊隊長クライス! かの偉大なる勇者様より『シュイダシャプランコ』との異名をいただいた者なり!」
人間と魔族による第二ラウンドが始まった。




