第十八話
「こんなものか」
木刀を持つ白い仮面が両手を砂に付けたコルトを見下ろしている。
「修行が足りんな」
「やり過ぎるなと言うたろうが!」
「言われた通り手加減したぞ!」
「この阿呆! 上手くやれと言っておるのだ」
「あはは。さすがだねぇ」
男勇者二人が呆気にとられているのをよそに、武、ウィン、エンが騒ぎ出した。
訓練場。
剣による一対一である。
プランコや勇人、裕也、ウィンにエンが見守る中、武とコルトによる組み手が行われた。剣の腕を知ろうと「どこからでも打ち込んでください」とコルトが言ったところ、武の素早すぎる袈裟懸けに防御する間もなく一撃で倒されたのだ。剣を握り、モンスターと戦い、戦争を経験した。コルトにとって、その中でもこんなことは初めての事件だった。
勇者だから? ありえない。そんなはずはない。確かにユウト様もユウヤ様も、ずば抜けた才能は感じた。けれど、まだまだ原石だ。ユウト様の速い攻撃もユウヤ様の力強い攻撃も、本当に素晴らしい。でも、原石だ。僕は、僕は。原石じゃない。戦争を経験して、戦い抜いて、その上で天才と呼ばれているのだから!
「もう一度、お願いします」
立ち上がる。愛用のロングソードを両の手で握り締める。この重さ。間違いない。戦場とともに歩いた相棒だ。
「いいだろう」
構える。強く。より強く。
対して、カエンダーは力を抜いているように見える。
手加減? ふざけやがって……。
「僕から行きます」
「宣言して攻撃するヤツがどこにいる」
くそっ。落ち着け、落ち着け、落ち着け……。
深呼吸。そして、無言で大地を全力で蹴った。
力の限りを尽くした脳天。反らされる。歯を食いしばる。横薙ぎ。左から右へ。上に弾かれる。隙。軽く鎧の上から胴を突かれる。距離ができた。瞬時に身体強化魔法。全身にかける。これ以上ない、素早く重い必殺の突き。手応えなし。手首の痺れ。なぜ。木刀を手首に当てられている。ありえない。困惑。だが身体は死闘を経験している。肩からの体当たり。寝技に持ち込みトドメを刺す。空振り。目の前には手の平。足が引っ掛けられる。何が、何が起こっている!?
「うおおぉぉぉ!」
衝撃。背中を強く打ちつけた。何が起こった。どうして天井が見える?
「天狗の鼻を折っていただこうと思っておりましたが、これは……」
「天狗の鼻なら折ったことあるぞ」
「この阿呆。物理的なはずがなかろう。主に状況を、それから翻訳機能も思い出せ」
「ウィン、どゆこと?」
「つまり、この若い騎士は有望株で、お主はやり過ぎたということだ」
「あはは。僕は好きだよ。斜め上なトコ」
「プランコ、こいつドラフト一位候補レベルなの?」
「申し訳ありません。ドラフト一位というのが何なのかさっぱりわかりませんが、おそらく、ご想像とお間違いないかと」
「即戦力型か素材型か、気になるところだな」
「お主、本当にバスケ部だったのか?」
「昔は野球部も考えてたけど、坊主にしたくなかったから」
「お主は坊主くらいが調度いいわい」
「僕も坊主姿、見たかったなー」
「もう一度、お願いします」
くらくらする。
それでも立ち上がる。
「根性あるね。俺は好きだよ、そういうの」
「あなたから好かれても嬉しくないです」
「あらら。……よし、そうだな。三人まとめてかかってこい!」
これほどまでの屈辱……!
「くそっ! 絶対に倒してやる」
「できるかな、その程度の実力で。虫は虫らしく、無様にひれ伏すがイイッ」
「ころ……、殺してやる!」
「ふはははは。……よかろう、やってみろ。このカエンダーに対して!」
「ノリノリなところ申し訳ありません。これ以上はみなさんが潰されてしまいますので、私がカエンダー様の代わりをさせていただきます。カエンダー様はどうか、あちらでお休みになられてください」
「あるぇ? あるぇぇぇ?」
意図せずとも、ボッチ計画の進行は順調だ。




