第一章 予感
夕暮れの中、私はいつもと同じように親友の叶恵と電車に乗っていた。叶恵とは中学校の頃からの付き合いで、いつも一緒に帰っている。
「ねぇ、紗耶香の両親って何してる人なの?」
「えっ、うーん・・・」
私は突然の質問に戸惑っていた。両親の仕事を言うと決まって驚かれたり、おおげさに感心されたりするからだ。なのでなるべく言わないようにしてきたが、叶恵は親友だしもう慣れてきていたので、あまり気にしないことにした。
「・・・檜原にある機械知能研究所。」
「うそ!研究員ってこと?それってすごいじゃん!頭いいんだねー」
そのあと色々と聞かれたが、駅到着のアナウンスが流れ、電車を降り、駅前で叶恵とは別れた。さっきまで私達を赤く照らしていた太陽も沈んでしまい、辺りはだんだんと暗くなっていった。
「(すごい、か・・・)」
私は電車の中で叶恵に言われた事を思い出していた。 「(確かに母さん達のしている仕事はすごいけれども、私にとっては・・・)」
最後に家族全員が揃ったのはいつだったか。
昔は父も母もよく遊んでくれたが、小学校に入学した頃からほとんど無くなってしまった。噂ではその頃から政府が次世代ロボットの開発に着手し始め、両親は忙しくなってきたようである。そんなことを考えていたら家に着いていた。ドアノブに手をかけたとき、ふと空を見上げた。漆黒の空には少し赤みがかった三日月が浮かんでいた。