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嵐舞姫  作者: 春秋
8/8

帰宅

約一年ぶりの更新。

目標、達成できず、すみません。

辺りが完全に暗くなり、家々に灯りが灯された頃にようやく璃空達はタナサの住む村にたどり着いた。

家路を急ぐ村人に、挨拶を交わしながら進んで行く。

タナサの家は、村の中心部の広場近くにあった。

周りの家に比べ、一回り大きな煉瓦作りの家にタナサは璃空とカンナを案内した。

「ただいま」

「タナサ!何処に言ってたの!?」

タナサがドアを開けた途端、中から女性の声が響いた。

続いて恰幅のいい逞しそうな姿が現れた。

「こんなに遅くまで何処に行ってたの?道草してた訳じゃないんでしょうね?日が暮れるまでに帰りなさいとあれほど言ってあったでしょう!」

勢いよく喋る女性には、璃空とカンナの姿は目に入ってないようだ。

「か、母さん。待って。訳を話すから」

まだまだ続きそうな説教をタナサは、遮る。

それにようやく落ち着きを取り戻したタナサの母親―クナサが、ドアの陰にいた璃空達に気が付いた。

「タナサ、この方達は?」

いぶかしげな母親にタナサが慌てて二人を紹介する。

「璃空とカンナよ、母さん。森で妖鬼に襲われた時に二人に助けてもらったの」

「妖鬼に!怪我は、怪我はないの?どこか痛い所は?」

タナサの言葉にクナサは、心配そうに身体を見回し、手で撫でていく。

「大丈夫よ、母さん。それで二人に助けて貰ったから、家に泊めていいでしょう?」

怪我をしてないことを伝えると、ほっと安堵の溜め息をクナサは溢した。

少々心配性のクナサに自分が怪我したことを伝えるつもりは、タナサにはなかった。

それに実の所、タナサにもあの時璃空が何をしたのか分かっていなかった。

あの時どうやって治したのか何度か聞こうとはした。だが、何となく聞き辛く、躊躇っている内に聞けないまま家にたどり着いてしまったのだ。

「もちろんよ。タナサを助けて下さったんですもの。さぁさぁ、どうそ二人とも中にお入り下さいなぁ」

クナサはにっこりとさっきまでとは一転して、友好的な笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます。私は、璃空でこっちはカンナです」

礼儀正しく挨拶する璃空の様子にクナサは更に笑みを深くする。

「まぁまぁ、本当に娘を助けて下さってありがとうございます。もう本当にこの子ったら、どこか抜けた所が

「母さん、夕食の準備は?二人とも疲れてるんだから、早く中に入れてあげて」

タナサは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ぐいぐいとクナサの背中を押す。

「そうね。じゃ、私は夕食の用意をしておくから、タナサはお二人を案内しなさい。そうそう、お二人は同じ部屋で構わないわかしら?」

申し訳なさそうな表情を浮かべるクナサに璃空は笑顔で頷く。

「構いませんよ。迷惑をお掛けします」

もう一度頭を下げた璃空にクナサは好意的な笑みを浮かべると奥に戻っていった。

「ごめんなさい、母さんたら遠慮がないんだから」

ちょっと怒った表情をするタナサに璃空は首を振る。

「それだけ、心配してたのよ。それより、中に入ってもいい?」

「ごめんなさい。さぁ、入って。部屋を片付けなきゃね」




タナサの家の中は、今まで外に居た三人を暖かく迎え入れてくれた。

入り口で璃空はフードを脱いだ。

その下からは、茶色の動き易そうな服と大きな肩掛け鞄が現れた。

璃空が脱いだフードをさも当然という様にカンナが受け取る。

その動作だけで、タナサにはカンナが璃空を大切に思ってるのが分かった。

(いいなぁ、璃空は。カンナさんに大切にされてて。あれ、何でもこんなこと、思うんだろう?)

タナサは、そんな風に思う自分に少し戸惑いを覚えた。

それは、あの時妖鬼相手に優雅に戦うカンナを見た時芽生えた淡い思い。

その名をタナサが知る日は来るのだろうか?




部屋のあちらこちらに綺麗な刺繍が施された壁飾りや小物が飾られている。

それらを璃空が興味深げに見ているとタナサが嬉しそうに笑った。

目を輝かせて飾りを眺めている璃空は、子供らしくてタナサは改めて彼女が年下である事を意識した。

さっきまでは、璃空があまりにもしっかりしていて自分の方が年下の様な気がしていた。

(旅をしてると、皆あんな風にしっかりとしてくるのかしら?)


そんな二人とは対照的にカンナの興味は夕食にしかなかった。

置いてある物にも一切の興味を向けず、暇そうな表情を浮かべていた。

それに気が付いた璃空がこっそりとその足を踏む。

(何すんだよ!)

(少しはこういった物にも目を向けなさい!)

(俺は、腹が減ってるだ!そんなすぐ壊れる様な物、興味ないね)

(この乱暴者!少しは芸術性を養いなさい!)

小声で言い争う二人に気付かないのか、タナサはそれらは全てクナサの手作りだと説明し始めた。

「母さん、手先が本当に器用でこういう物を作って売ってるの。結構高く売れたりするのよ」

にこにこと笑いながら話すタナサの様子から、それを誇りに思ってるのがよく分かる。

「最も、母さんの血は私に受け継がれなかったみたいでね、私は本当に不器用なの」

ちょっと肩を竦めて見せるタナサに璃空は笑い掛ける。

「でも、タナサにはタナサしか出来ない事があるでしょ?そういえば、タナサの家は医師か薬師なの?」

首を傾げ尋ねる璃空に、タナサは驚いた様に目を見開く。

「家は、村に一軒しかない薬師よ。どうして、分かったの?」

(村に一軒。まぁ、この大きさだと妥当なとこね)

先程見た村の様子を思い出し内心頷きながら、タナサの問いに答える。

「昼間、タナサが摘んでたのは鎮痛効果のある薬草とか止血効果のある薬草とかだったでしょ?あれを使うのは、薬師か医師だけよ。それに、微かに薬草を磨り潰しような匂いがするしね」

何でもない事の様に璃空は答えているが、それは違う。

あのときタナサが摘んでたのは一見すると食用や毒草に似た物ばかりだった。

あれをほんの短時間見ただけで、薬草と見破れるのは同じ薬師か医師位である。

(うん?薬草?そういえば、昼間採ってた薬草、何処にやったけ?)

慌てて両手を見てみるが勿論両手は空っぽだ。

急に両手や体の周りを見出したタナサに璃空とカンナは首を傾げた。

だが直ぐに璃空は何かに気付いたのか自分の肩掛け鞄を探る。

鞄から取り出したのは、あの時タナサが採っていた薬草が入った籠。

とても鞄に入る大きさではないが、焦っているタナサは気が付かない。

カンナにしても、不思議ではないのだろう何も口にしない。

「タナサ、探し物はこれ?」


にっこりと笑いながら璃空が差し出した籠に、タナサは飛びつく。

急いで中を確かめると、中にはタナサが摘んだ薬草が入っていた。

ほっと安堵のため息を付くと、タナサは璃空に頭を下げた。

「ありがとう、璃空。また、あそこに取りに行かなきゃ行けないかと思ってたの。でも、どこにこれ、持ってたの?」

「気にしないで。カンナが持ってたのよ、それ。フードの中にあったから、気付かなかったのよ」

にっこりとバレないように嘘をつく璃空をカンナは呆れたように見る。

だが、ここで突っ込めば痛い目に合うのを理解しているから、タナサの礼に頷くだけに留める。






「はい、ここが二人の部屋よ。狭いけどね」

そういってタナサが案内したのは、階段を上がってすぐの部屋。

確かにそう広いとは言えないが、ベッドが2つあり小さな棚が置かれた清潔で居心地の良さそうな部屋だった。

璃空の目は、2つのベッドに掛けられたカバーに惹き付けられた。

けして派手ではないが幾つもの端切れが組み合わり、一枚の絵を描き出していた。

「すごい!とっても綺麗ね、このベッドカバー。これもタナサのお母さんが作られたものなの?」

まじまじとベッドカバーをみつめる、子供らしい璃空に笑みを溢しながらタナサは頷いた。

「ええ、母さんの作品よ。綺麗でしょう。自信作なんですって」




タナサと璃空が話してる横でカンナは黙々と璃空の分の荷物まで整理していた。

といっても旅の途中であるから荷物はそんなに多くない。

そもそも、璃空もカンナも元から小まめに整理をしているし、旅にも馴れているからすぐに終わってしまう。

手持ちぶさたになり、部屋を再度眺めていると小さく空腹を訴える物があった。

「はぁ〜。腹減った」

それに答えるように小さく、あくまで璃空には聞こえない程度にカンナは呟いた。


まさかそれが聞こえた訳ではないだろうが、タイミング良くクナサの三人を呼ぶ声が下からした。



旅する者達は、一時の安らぎを味わう。

その先に待つ闘いを知らずに。

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