安心感
またまた間が開きました。少しも進まない話ですが、楽しんで下さる方がいらっしゃれば幸いです。
「カンナ、タナサが驚いてるでしょう。居なくなるのは構わないけど、そうやって人を驚かすのはやめなさいよね。悪趣味よ」
璃空は呆れたような表情を浮かべながら、タナサの後ろに立つカンナを睨んだ。
「そう、ポンポン言うなって。てか、居なくなるのは構わないって、冷たくないか、璃空」
苦笑しながら、自分を見るカンナに璃空は首を傾げる。
「そう?何処が?あなたが何処に居ようと大丈夫でしょう」
璃空の言葉にニッとカンナは嬉しそうに笑った。
「それって、俺を信頼してくれてる訳だな」
本当に嬉しそうにしているカンナに呆れたように一つため息をつくと、璃空は頷いた。
「そうとっても構わないわ。ところで、いい加減、タナサから離れたら?」
両肩に置かれたカンナの手の温もりにタナサは強張り、身動き一つ出来ないでいた。
「おっ、わりぃ。タナサは慣れてないのな」
璃空の言葉でタナサの様子に気付いたカンナは、慌てて両手を離した。
「大丈夫?タナサ。カンナも悪気があった訳じゃないのよ?ただ、馬鹿で無神経だから、あんな事をするだけで」
璃空はタナサを慰めながら、チクチクとカンナを責める。
事実なので、反論出来ないカンナは渋い顔でタナサから離れた所に立ち尽くすしかなかった。
「だ、大丈夫。急で驚いただけだから」
まだ頬を赤らめながらも、そう告げるタナサに璃空はギロッとカンナを睨む。
「タナサがそういうなら、いいわ。カンナ、次、同じことしたら、どうなるか分かってるわよね?」
タナサに向かって話し掛けたのとは異なる低い声でカンナの名を璃空は呼んだ。
「了解。肝に命じておきます」
両手を上げ、降参を示すカンナに満足気に璃空は頷いた。
「さて、タナサ、悪いけど急ぐわよ。もうかなり暗くなってるんだから。暗くなったら、何が出るか分からないんだしね」
ちろりとカンナを横目に見る。
「可愛い女の子を襲う銀色の変態とかね」
少し声を大きくし楽しそうな璃空の言葉にカンナは思わず顔をしかめる。
そんな二人の様子にタナサは知らず知らずのうちに笑みを浮かべた。
辺りはますます暗くなってくる。
タナサ一人であれば、恐怖に震えただろう。いや、誰と一緒であっても恐れで笑うどころではなかっただろう。
璃空とカンナ。
この二人と一緒だからこそ、タナサは暗い森の中でも笑えたし、恐怖に震えることもなかった。
(この二人と一緒なら、大丈夫。初めて会ったのにこんな風に思うのは変かな?妖鬼を倒すのを見たからかな?ううん、そうじゃない。この二人だから安心出来る、思えんだよ、きっと)
「さぁ、二人とも本当に急がないとご飯、食べ損ねるよ」
口論を初めそうな二人に声を掛けるとタナサは先に歩き出した。二人が、後を追いかけてくる足音にくすりとタナサはさらに笑みを深くした。
暗き森にて、なおも続く安心感。落ち着いた二人の様子。
それが物語るのは?