師匠
遅くなってすみません。
待っていて下さる方がいると嬉しいです。
「カ、カンナはどうしたの?」
赤くなったのを誤魔化すようにタナサは辺りを見回した。
「さぁ?カンナは気まぐれなとこがあるから。その内、戻ってくるんじゃない?」
カンナの不在に璃空は全く心配する様子はなかった。
「でも、この辺りは遅くなると盗賊とかが出て来るのに」
会ったばかりの人を心配するタナサの様子にクスッと璃空が笑った。
「心配しなくて大丈夫よ。カンナは、妖鬼を倒せるのよ?そこらの盗賊に何か負けないわよ」
片目をつぶり、愉しそうに歌うように璃空は言った。
「…そうよね。妖鬼を倒せるんだったら、大丈夫ね」
ホッと息を吐くタナサに璃空は優しい笑みを浮かべる。
「あっ、でも、家が分からないんじゃ」
「大丈夫。ほら、これ」
璃空がタナサに差し出したのは、透き通る薄い碧色の宝玉が2つあしらわれた銀の耳飾り。水を象ったその耳飾りは沈みゆく夕日を受けながらも、赤く染まらずに柔らかな光を時折放っていた。
「この石、1つの石を砕いた物なの。欠片同士引き付けあうようになってるから、私の居場所はすぐに判るはずよ」
「綺麗ね。私、こんなに綺麗なの初めて見たわ」
ほうっと感嘆のため息付いたタナサに璃空は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。これ私が初めて作ったものなの。そう言ってもらえて嬉しいわ」
「璃空が作ったの?器用なのね」
「そう?師匠はもっとすごいの作ってたよ?」
「師匠?」
首を傾げるタナサに璃空は得意気に頷いた。
「私を育ててくれたんだけど、色んなことが得意な人。多分、天才て師匠みたいな人を言うんだと思うくらい」
「凄いんだね」
驚いたように言うタナサの言葉に璃空は顔をしかめた。
「どうしたの?」
「……師匠は、性格が最悪なのよ。見た目は良いし、と言うか極上なんだけど。何でも出来る割には面倒くさがりだから何もしないし。口は悪いし、人には恨まれまくってるし、金遣いは荒い。人が作ってあげたのには文句ばかりだし」
ふぅとため息をつく璃空から、少しひきった笑みを浮かべながら、タナサは視線をずらした。
「…大変なんだね」
ふっと投げ遣りな笑みを璃空は浮かべた。
「……慣れたわ」
「……そう」
「暗い話して、ごめんね。この話はここまで。この辺りも暗くなってきたし、早くタナサの家に行きましょう」
にっこりとさっきまでとはまるで違う明るい笑みを璃空は浮かべた。
璃空の笑みにつられるようにタナサも笑って見せた。辺りを見回し、空の縁のほんの僅かだけが赤いのを見ると頷いた。
「そうね。あともう少しで着くわ」
「結構、遠いのなぁ」
「キャー」
唐突に聞こえてきた声にタナサはビクッと体を震わせ、思わず声をあげた。
師匠の才と弟子の才。
優るのは?