読書バカ日和
ハマちゃんとスーさんみたいな。
「おはようございます、会長」
「うん。おはよう」
新入生に、私は微笑みながら返す。
サッ、と私は相手の服装をチェックする。
スカートは、短くない。
ネクタイも、曲がっていない。
勝手に衣替えも、していない。
「今日も頑張ろうね」
笑顔で口にする。
相手は、顔を赤くしてうなずいてくれる。
私の通う高校は、お嬢様学校。
2026年、令和8年にしては、珍しいかもしれない。女子高、勉学も部活も全国トップクラス。
『勉強は若者の仕事』
というのが、ここの生徒や教師の思想。
本当に、息が苦しくなる。
けど、私は生徒会長だし。
毎日の、朝の挨拶活動。
今朝も頑張らないと。
「あっ、せんさん、おっはー」
「…色々と突っ込みたいんだけど」
呟く。
いい笑顔なのは、いいんだけど。
「今日も頑張りましょ、せんさん」
「まず、せんさんは誰だ」
「先輩だからせんさん、会長って呼ぶのも堅苦しくない?」
相変わらず、能天気な奴。
私の隣に立つ副会長は顔を赤くしている。さっきの生徒みたいに、照れている訳ではない。カンカンに怒っているのだ。
「スカートも短いし、ネクタイはそもそも着けてないし、勝手に衣替えしてるし。まだ4月だよ?」
「だって暑いもん。
じゃねー」
ヒラヒラ、と手を振りながら歩いていく。
お嬢様学校じゃなければ、隣の副会長は怒鳴り散らしていただろう。
品性があってよかったな、全く。
「やれやれ」
ため息を吐き、空を仰ぐ。
今日も晴れている。ウグイスも陽気に鳴いてるし、私にとってはいい天気だ。
「勉強は若い私たちの仕事だ」
第一声。
ふかふかのソファーに座る副会長は、真面目言う。
茶道部で、勉学は常に学年2位。凛々しく、真面目で、顔つきはイケメン。最近の困り事は新入生に毎日のように告白されることらしい。私もそれを困り事にしたいものだ。
『せんさん、今日は図書館行きましょ、図書館』
いかんいかん、アイツの顔が浮かんで来てしまった。
昼休み。
広い生徒会室で、会議をしている。
参加しているのは、生徒会役員全員。
やはり、皆真面目な顔をしている。
ああ、息が苦しい。換気をしたい。
続けて副会長は、
「来月は、ゴールデンウィークというものがある。今年も宿題はたくさん出してもらおう。
異論はないな」
私以外の役員は全員うなずく。
『勉学は若い人の仕事』
はあ。
「会長、それでいいね」
「う、うん?」
『ゴールデンウィークはいっぱい本を読も、せんさん』
参ったな…。
宿題の量が多いと、あの子と遊べない。
「特に、あの新入生はふぬけているじゃないですか」
2年生の役員が言う。
「今日も服装はだらしなく、授業中もいつもいびきをかきながら寝ているらしいんですよ。
本当、どうして入学できたのかしら。
いっそ退学できません? 会長」
「いや、セイちゃんは、学校のムードメーカーというか」
「会長? 何か言われましたか?ちょっと私の耳が悪く」
「何でもない、何でもないよぉ」
私は机に突っ伏す。
すぐに、私は真面目に、
「今年は、生徒たちに自主的に頑張ってもらおう。
最近、本で知ったけど、勉強をしなさいと言う親の子は勉強が嫌いになりやすいらしい。
そもそも、ここの高校は全国トップクラスで、宿題なんか出さなくても勉強を進んでするんじゃないのかな?
どうかな、今年は宿題をなしにしよう。その代わり、連休明けに抜き打ちテストをしてもいいから」
「流石会長だな、うむ。素晴らしい」
「ははは…」
「しかも本とは。余裕があるんだな、流石会長」
「ははは…」
はあ。
「連休最高♪今日は本屋で本を買って、私の家で読みましょ、2人きりで」
「せんさん、決まりました?」
ニコニコしながら聞いてくる。
私は申し訳なさそうに、
「どんな本を読めばいいか分からない。
ただ読むのと買って読むのは違うような気がして」
「そうですねー。
読書を、せんさんはどうしてするんです?」
「どうして?
楽しみたいから、かな。
勉学は若い人の仕事、両親からそう言われて育って、今は学校の人たちも言うけど。
私は、本っていうのを小さかった頃から読みたくて。
物語とか、知らない業界とか、そういうのを知って楽しみたい」
「じゃあ、ライトノベルとか買ってみましょうよ。好きな作家とか、普段読まないような本を冒険して買うのもいいかもっ」
「ライトノベル? ライト兄弟と関係ある?」
「違います、まー、小説の軽い版、かな。名前を聞くのは初めてですか。
ライトノベルって言いますっ」
「へえ、流石セイちゃん」
「人気作家ですから、えっへん」
得意気な顔で胸を張られる。ぺったんこの胸が自己主張をしてくる。まあ、私もないけど。
「流石、人気作家」
「そうです、人気作家ですよ。お嬢様学校に推薦で入れるくらいに人気なんですよ」
本を数冊買い、書店から出る。
今日は、2人とも私服。
私服、先月、つまり4月のはじめくらいに、私服というものを私は初めて買った。
この、セイちゃんと出会って。
人気作家の先生だから、セイちゃん。
学校の人たちは、読むとしても夏目漱石やドストエフスキーといった昔の作家たちの作品だから、セイちゃんのことは知らないけど。
私は、たまたま知っていた。
本に、興味があったし。
「よし。
じゃ、一緒に行こ」
さりげなく、手を握ってくる。相変わらずの能天気顔で。
ドキドキするから、やめてほしいなぁ。
顔を赤くし、私はうなずく。
「連休を宿題なしにしてよかったですね、会長」
「なっ、なぜそれを」
「ふふふっ」
余計、顔を赤くしてしまう。
ありがとうございました!




