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23. 遮断

 ロベルトがいない間、ジェイはクリスの様子を見ることにした。息は落ち着いてきているようで、大きな腹がゆったりと上下している。暗いので顔色はよくわからないが、脂汗をかいている以外は普通そうだ。病人とはいえ、頬を撫でてやる気にはならない。可愛い女の子だったら別だけど。久美だったらつきっきりで介抱するのになあと現実逃避する。なぜって、クリスの吐いたものが臭いからだ。胃酸の匂いではない。腐敗した動物の匂いがするのだ。


 こいつ、マジ何食ったんだよ。


 ジェイはクリスの吐瀉物を疑わしそうな目で見た。明らかに黒い液体。ドロドロしているそれは、まるで井戸水の最初に出てくるヘドロのようだ。


 まさかあれを一気飲みしたわけじゃないよな。クリスはここの水を嫌がっていたし。神経質なところのある奴だから、そんなクレイジーなことするわけない。

 ……いや、ドラッグでラリっておかしなことをした?

 その可能性も否めない。とにかく本人に話を聞かないと。


 落ち着いてきた頃合いを見計らって、ジェイはしゃがんでクリスに声を掛けた。

「Hey big man. How are you feeling? (よお、調子どうだ?)」

「Fine. (別に)」

 そっぽを向きながらクリスは言う。


 一応悪いことをした自覚はあるらしい、とジェイはほっとした。話が通じるくらい冷静さを取り戻しているということだ。


「何が起きたか話せるか?」

 なるべく詰問口調にならないようにジェイは軽く聞く。

 クリスは拳を握って頭を振った。

「……今朝起きたらすげー気持ち悪くて、頭はガンガンするし、変な声が聞こえて、周りの奴らが僕のことを傷つけようとしてるから逃げろって何度も何度も聞こえたんだ。それで、こっちにこいって言われて、気づいたらここ」


 妄想。幻聴。発作的行動。

 これはもう間違いない。

 ジェイは吐きそうになるため息を押し殺した。


「…………わかった。いつからドラッグやってる?」

「は?」

「ここまできて隠すなよ。やってるんだろ?」

「僕がそんなことするわけないじゃないか!」

 クリスは身を起こしてジェイを睨んだ。

 クリスのあまりの驚きように、まだこいつは薬の効果が抜け切っていないんじゃないかとジェイは警戒した。だったらヤバいな。またいきなり何をしだすかわからない。


 ジェイは外の方をチラリと見る。ロベルトはまだ帰ってきそうにない。巨漢のクリスをジェイ一人で押さえられるかは五分五分だ。


「わかった。じゃあ他になんか変なものでも食ったか? キノコとか」

「僕はこの村のものは一切口にしていない」

 クリスははっきりと言い切った。またまたー、とジェイは苦笑いする。


「ジェイ今、僕がこんなにデブなのに食わないでやっていけるのかって思っただろう?」

 クリスはぎろりとジェイを睨んだ。ジェイは思わず目を逸らしてしまう。なんでこんな素直な反応をしてしまうんだとほぞを噛む。逸らした目の先に走ってくるロベルトが見えた。これ幸いとジェイはロベルトに向かって手を振った。ロベルトも振り返す。何か叫んでいる気がするが、音が反響してよく聞こえない。


 ロベルトは動け、動けと手で合図している。さすがに異変を感じたジェイも立ち上がった。

「走れ!」

 ロベルトが叫ぶ。

「は?」

「土砂崩れだ! 入り口が塞がった! こっちまで崩れてきてる! 早く、走れ!」

 ロベルトはジェイの胸ぐらを掴んで洞窟の奥へと走りだす。クリスも慌ててそれに続く。


 がしゃん、がしゃんと上から岩が落ちてくる音がする。必死で足を動かすが、足元スレスレまで雨とも土とも言えない物が追いかけてくる。


 何度か足を取られそうになりながら三人は走った。一番早いのはロベルト。それにジェイが続く。クリスもなんとかそれに食らいつく。喉の奥から血の味が上がってきた。息を整える間もなく、必死に足を動かした。

 ヒヤリとすることは何度かあったが、背後から迫り来る泥はやがて勢いを落としていく。それを見てゆっくりとスピードを落としていった三人だが、後ろを見たことでバランスを崩したクリスが小石に躓いて転んだ。派手に回転し、壁に衝突した。『ガン!』と音がして、クリスの体は沈んでいった。うつむきのままはまずいだろうと、ジェイとロベルトは肩で息をしながらクリスをひっくり返した。クリスは目を剥いて気を失っている。何度か頬を叩いてみたが、意識を取り戻す様子はない。


「あー……詰んだな」

「たしかに」


 幸いこれ以上岩と泥が襲ってくる気配はないが、戻る道は完全に塞がれてしまった。走ってきた距離を考えるに、ちょっと掘ったら外に出れるという生易しいものでもなさそうだ。それに、大雨で地盤が脆くなっているから、下手に触ったらまた崩れ始めるかもしれない。

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