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エピローグ:時の歯車は、今日も巡る

エピローグ:時の歯車は、今日も巡る


 都会の喧騒の中、それぞれの場所で、かつてバー「トキカサネ」で時空の歪みに立ち向かった男たちは、自分の人生を力強く生きていた。


 工藤創司は、新商品のプレゼンを終え、部下たちと笑顔で肩を並べて歩いていた。口癖の「そない言うてもなあ」はそのままに、以前の“硬さ”はどこへやら、部下の言葉に耳を傾け、楽しそうに笑い合っている。


 その姿は、「人とのつながりを大切にする」というテーマを、何よりも雄弁に物語っていた。


 石田現吾は、巨大な現場をまとめ上げた帰り道、早く家に帰ろうと足早に会社を出た。スマホには娘からの「今日の晩ごはん、パパの好きなやつだよ!」というメッセージが届いている。


「しゃあないわ!早く帰らなな!」と呟く表情には、仕事と家族のバランスを取り戻した男の、優しい誇らしさがにじんでいた。


 弁野正義は、法律事務所である依頼人の書類を閉じ、ふと窓の外を眺めていた。そこにあったのは、理屈でも義務でもない、穏やかな光。


「論理だけでは救えぬものもある。……まあ、それが人間やな」


 そう呟き、静かに山崎を一口。感情と理性のあいだで揺れ、心を開くことを覚えた彼の、新たな日常がそこにあった。


 舞鶴尚也は、小劇団の稽古場で、若手たちと共に新しい舞台に挑戦していた。彼の演出は以前よりも大胆で自由になり、客席の片隅には、かつての「自信喪失」は見当たらない。


「いざ、新たな舞台の幕開けや!」と、喝采を浴びるように両腕を広げる。


 彼は、ついに“自分の個性”を認め、次のステップへと歩みを進めていた。


 夜が深まり、大阪・天王寺の路地裏――


 静かな階段を、一人、また一人と降りてくる男たちの足音が、石畳に淡く響く。カラン。ドアベルの音が、微かに木の香りがする静かな空間に響いた。控えめな照明の下、カウンターの奥では店主・時重が、いつものように無言でグラスを磨いている。


「おう、工藤はん。今日も早かったな!」


 石田が黒霧島のお湯割りを頼みながら豪快に言う。


 工藤はジャックダニエルをロックで嗜み、「そない言うてもなあ、たまには早めに飲みに来るのもええもんやで」と笑う。


 弁野は山崎のストレートを傾け、「相変わらずだ」と呟く。


 舞鶴はカルーアミルクを手に、「いざ、今夜の舞台の幕開けや!」と、いつもの調子で場を盛り上げる。


 言葉少なでも、彼らの間には、深くゆるやかな絆が流れていた。


 やがて、もう一度、ドアベルが静かに鳴る。


 白いコートを羽織った一人の男が、店に入ってきた。かつてのような鋭さは消え、疲れをにじませた穏やかな表情で、彼はゆっくりとカウンターに腰を下ろす。


 ――それは、「未来の墓場」の時間制御部隊長†クロノ・ヴァイス†に酷似した男だった。


「……時の歯車は、今日も狂いっぱなしだ」


 彼は小さく呟き、ラフロイグを注文する。


 時重は無言で頷き、グラスに琥珀色の液体を静かに注いだ。彼がふと、視線を壁の一角に向けた。


 そこには、常連客の名刺――時計の針型の小箱に収められたそれら――が飾られている。


 その中に、新たに加えられた一本の針があった。小さな文字で「新来 明」と記されている。


 彼はその名を見つめ、「……新来 明、か」と小さく呟く。それは、かつて「未来での落ちこぼれ」として名を捨てた彼が、自分の名前と存在を静かに受け入れた瞬間だった。


 ふっと微笑み、彼はラフロイグをゆっくりと傾ける。


 時重は彼にちらりと目をやり、再び静かにグラスを磨き始めた。


 バー「トキカサネ」の奥、時計台は静かに時を刻み続けている。この場所では、これからもさまざまな「時間」と「人」が交差し、敵も味方も、過去も未来も――その境界は、ゆるやかに溶け合っていく。


 そしてまた、静かに、新たな物語が始まろうとしていた。

 

あとがき


 ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。


 まさか、おっさんたちがグラス片手に未来と戦う話を、最後まで読んでくれるなんて……いやほんま、ええ人ですね、みなさん!?


 この物語は、どこかにあるようで、どこにもない――そんな「バー トキカサネ」を舞台にした、小さな時空の交差点の話です。


 仕事帰りの一杯で、ふと「あの日あのときの自分」を思い出すこと、ありませんか。

 誰かと語るまでもないけど、自分の中ではちょっと大事な記憶。

 そんな夜が、グラスの底に静かに沈んでいる――きっと、誰の人生にもあると思うんです。


 私もたま〜に、馴染みのバーにふらっと顔を出します。

 いつも同じ席にいる常連さん、初めてなのになぜか話が弾む人――。

 「なんでそんな大事な話、初対面の人間にすんねん!」と思いつつ、しっかり心に残る瞬間があります。


 この物語に登場したおっさんたちは、誇張多め、ツッコミ必須の人間ばかり。でも、どこかに実在していてもおかしくない“あるある”の塊でもあります。


 またいつか、「トキカサネ」でお会いできたら嬉しいです。そのときはぜひ一杯、お付き合いください――おごるかどうかは、その日の財布と相談で(^^♪


by MMPP.Key-_-bou(中間管理職パパ キーボウ)

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