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激昂

「んー……? メッッッチャいい子だけどな、ノルファ」


 ノルファの真意が読めなかった斗悟はその後、蓮に相談してみたのだが、彼女も不思議そうに首を傾げるだけだった。


「無表情で無口だから冷たそうに誤解されがちだけど、ほんとはすごく優しいんだ。いつもあたしとか比奈子が危ない目に遭わないように気に掛けてくれるし」

「やっぱりそうなんだな」


 愛理も比奈子も同じような反応だったし、少なくとも彼女らにとってノルファが信頼できる仲間であるのは間違いない。『私はいい子じゃない』という発言は、周囲の評価に対して彼女自身の自己評価が低すぎることの表れのようだが……。


「お前がノルファの桜花武装を使えなかったことで落ち込まないように気ィつかってくれたんじゃねーの?」

「もちろんそれもあると思うが、それだけなのかな」


 気にはなる……が、考えてもわからないし何より本人が望んでいないことだ。一旦ここまでにしよう。


「そうかー。ノルファの桜花武装もまだ使えなかったのかー。残念だったなぁー」

「なんでちょっと嬉しそうなんだ、蓮」

「いや嬉しいワケじゃねーけど。……あたしだけじゃないのがちょっと安心っていうか」

「…………」


 斗悟が蓮と日中の行動を共にするようになって1週間が経つ。蓮が免除されている近接模擬戦闘訓練と就寝前のプライベートな時間以外、1日の大半を彼女と過ごしてきたが、未だに蓮の桜花武装を使うことはできないままだ。


 これまでの経験則から、どれくらいの距離感なら能力の借受が可能になるかは肌感覚でわかっているつもりだ。接点が少ないノルファはともかく、今の蓮との関係性ならもう借受ができてもおかしくない。


 そうなっていない原因は、おそらく。


 ……蓮には何か、意図的に斗悟に隠していることがあるのだろう。


 ルチアがそうだった。


 世界を救う運命を背負う者同士ともに旅をするようになってからもしばらく、ルチアには〈|インフィニティ・ブレイヴァー《祈りを満たす勇気の器》〉が発動しなかった。お互いに背中を預けられるほど信頼し合っているつもりだった斗悟はそれが不思議でならなかったが、今思えば当然だ――当時のルチアは本心を押し殺し、求められる完璧な聖女像を演じていたのだから。


 世界を救う重責を背負わされた少女という点では、ルチアと桜花戦士たちの境遇はよく似ていた。


 蓮はこちらに背中を向け、パソコン(のような機械)で何かの作業を続けている。蓮にくっついてやって来たここは作戦準備室というらしいが、資料が豊富に保管されているので、彼女が仕事をしている間、斗悟は自分が知らないこの世界の歴史や桜花部隊とイーターの戦闘記録等を読んで時間を潰すのが定番になっていた。


「……〜〜〜〜〜♪」


 ふと蓮の鼻歌が聞こえて来て、「綺麗な曲だな」と声を掛けると、背もたれに預けていた蓮の後ろ姿がビクンと跳ね上がった。


 少しして振り返った蓮の顔は明らかに真っ赤で、羞恥に目が泳いでいる。


「…………何が?」

「何って、今君が鼻歌……」

「え? いや何、え? 鼻歌? とか歌ってないけど? あっ、あーあれか、端末から音楽漏れてたかも」

「いや、明らかに君の……」

「うっさい! 聞き間違いだから! わかった!?」


 そう言って、蓮はぷいとパソコンの画面に視線を戻してしまった。


 無意識だったのか、或いは背後に斗悟がいることを忘れていたのか。どちらにせよ強引すぎる誤魔化し方が微笑ましい。


 こういう年相応の少女らしい一面を見るほどに、彼女たちが人喰いの化物と最前線で戦わなければならないこの世界の現状がやるせなくなってくる。


 蓮もルチアと同様に、「自分にしかできない」という使命感の枷に自由を奪われ、望まぬ戦いを強いられているのではないだろうか。


「なあ、蓮」

「んだよ、しつこいな!」

「君は、本当は戦いたくないんじゃないか」

「…………は? なんだ? 急に」

「鞠原さんに聞いた。桜花武装の能力は、持ち主の性格にも影響を受けるって。君の桜花武装――『スタースケール』は、攻撃能力を持たない後方支援特化の性能だ」

「……だから、なんだよ」

「君の力なら、前線に出なくても十分みんなを支えられるんじゃないか? 君がオレを信じてくれれば、オレが君の能力を借りて、愛理たちのサポートを代わりに引き受けることができる。もしも君が、本当は戦いたくないのに、皆のために前線に同行しなければならないと思っているなら――」


 斗悟は、振り返った蓮の表情を見てハッとした。


 そこには、怒り、焦燥、悔しさや恐れといった様々な感情が渦巻いていたからだ。


「勝手なこと……言ってんじゃねえよ……!」


 蓮が立ち上がって叫ぶ。


「誰がそんなこと頼んだ! 勝手に人の気持ちを決めつけてヒーロー面すんな! お前にあたしの何がわかるってんだよ!!」


 提案を拒まれる可能性はもちろんあると思っていた。だが、想定を上回る拒絶に、斗悟は動揺を隠せなかった。


「す――すまない、オレはそんなつもりは……」

「うるせぇ! 出てけ! 出てけよ!!」


 蓮が激昂した理由を尋ねたかったが、もう話ができる状態ではない。蓮が手近にあった電子機器類を投げ始めたので、斗悟はそれらを受け止めてそっと床に置きながら、作戦準備室から逃げ出した。

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