17.Web小説ライター殺人事件
Web小説ライターのクライスラーマンのアカウント名の月山いさむ氏は、家人が必死で探している。自殺を匂わす遺書があった為、家人は何回も進捗を尋ねている。御池知事の知人の為、通常の手続き以外で探し出せないか、と相談された。特異行方不明者だしな。
========== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 =========================
夏目房之助・・・有限会社市場リサーチの会社の実質経営者だった。名義代表者は、妻の夏目優香。
夏目優香・・・有限会社夏目リサーチ社長。
夏目朱美・・・有限会社夏目リサーチ副社長。
笠置・・・夏目リサーチ社員。元学者。元経営者。分室リーダー。
高山・・・夏目リサーチ社員。元木工職人。Web小説ライターでもある。
榊・・・夏目リサーチ社員。元エンパイヤステーキホテルのレストランのシェフ。元自衛隊員。分室のまかない担当?
久保田嘉三・・・警視庁管理官。警視庁と夏目リサーチのパイプ役。
中津敬一・・・警視庁テロ対策室勤務。弟の経営する中津興信所と連絡を密にしている。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
※夏目リサーチは、阿倍野元総理が現役時代に設立された会社で、警視庁テロ対策室準備室が出来る前に出来た。スーパーや百貨店の市場調査会社が、「隠密に」テロ組織を調査するのに適していると、副総監が判断し、公安のアシストとしてスタートした。
夏目リサーチは、民間の市場調査を行うのと併行して、危機的状況を調査する、国家唯一の調査機関である。
※「捜索願」を出して、警察が実際に捜索に乗り出すのは、「特異行方不明者」に分類された行方不明者だけである。
特異行方不明者とは、
1.小学生などの子供や認知症を患っている老人など、別の場所で1人で生活していくのが困難な人。
2.誘拐などの事件に巻き込まれている可能性が高い人。
3.行方不明前後の行動で、水難や交通事故等に遭遇している人。
4.遺書があったり自殺のおそれがあったりする人。
5.精神障害などで、自分や他人を傷つけるおそれがある人。
6.少年の福祉を害する危険がある人。
午後10時。浅草、浅草寺裏手のビル。夏目リサーチ社分室。
「Web小説ライター?大阪の南部興信所の幸田さんが関わった事件もあったが、違うようだな。」
笠置が言うと、高山が指令書を覗き込んだ。「私もWeb小説ライターだってこと、忘れてません?クライスラーマン?このアカウント名の人なら知ってますよ。あの人、月山いさみって本名だったんだ。で?」
「で?読むよ。Web小説ライターのクライスラーマンのアカウント名の月山いさむ氏は、家人が必死で探している。自殺を匂わす遺書があった為、家人は何回も進捗を尋ねている。御池知事の知人の為、通常の手続き以外で探し出せないか、と相談された。特異行方不明者だしな。中津興信所にも写真と資料は送ってあるが、まだ消息は掴めていない。それで、中津警部からも相談を受けて、システムを利用することにした。尚、家人が急ぐ理由の一つがいさむの親が亡くなったこと。」
「遺産相続かあ。久保田管理官の苦々しい顔が目に浮かぶよ。それで、この人、どんな小説書いているの?」笠置が高山に尋ねた。
「オールラウンド。ホラー、SF、ファンタシー、ミステリー、冒険、政治、警察、戦争もの。そして、エッセイ。20個のサイトに連載を持っている。」
「凄いね。」「僕なんか足元にも及ばないね。憧れちゃうけど。あれ?もう出ちゃった。流石、カチカチデータ。顔認証の変装パターン、役に立つね。新橋のネカフェか。案外、ここで寝泊まりして、帰宅しないパターンじゃないの?」
午後11時。榊の作った、特製チャーハンと麻婆豆腐を食べ終えた後、マルチディスプレイに、文字通りの苦虫が映った。
「一足遅かったよ。新橋の『シン新橋ネットサーフインパート2』で、死体で発見された。10日ほど、泊まっていたようだった。死亡推定時刻が今朝の6時半頃。明日から、店の紹介で『常連さん』に聞き込みを開始する。今現在店にいる客には既に聴取済みだ。」
翌日。午後9時半。
オーナーである、夏目警視正が妻の優香と共に現れた。
「今日、何の日か知ってる?笠置さん。」と、優香が悪戯っぽく言った。
「えーと、今年の成人の日は明後日の月曜になってますね。13日。」
「明後日の一昨日はいつ?」「今日、1月11日。あっ!!」
「そう、鏡開き。榊さんに言ってあるわ。」
雑談をする内、高山が来て、榊が道具を持って現れた。
「まさか、また、コレを使うとはね。」榊は笑いながら、木槌で鏡餅を割った。
そして、応援に駆けつけた朱美と共に、3人がかりで餅を切った。
「料理が出来る前に話そう。殺害犯人は、財産が増えれば得をする人物、いさみの弟、たくみだったと思われた。姉を殺せば独り占め出来ると考えた。遺書らしきものは、コピーを貰って来た。」
そのコピーを見て、高山は、「クライスラーマンは、死ぬ積もりじゃなかった、かも。」と言った。
紙片のコピーには、『私の作品はエタる。もう、おしまいにする。』と書いてあった。
「『エタる』?『へたる』の間違いじゃないの?」
「いや、『エタる』は『エターナル』からくる『業界用語』で、『未完』のことです。」と、高山は言った。
「おしまいにする、だけで自殺に思えますよね。」と、笠置が言うと、「普通はね。このクライスラーマンのアカウントだが、合作だったんだ、姉と弟の。自殺されると困るんだ。高山さんの言う通りだった。『自殺』ではなく『絶筆』の意味だった。自供した所によると、居場所を突き止め、姉を説得に行ったら、揉み合う内、殺してしまった。弟たくみは、『第二の書斎』と呼んでいた、親の実家の隠し部屋に隠れていたのを捜査員に発見された。相続争いではなく、執筆の主権争いだった。」
「しかし、いさみって、男の名前だと思っていたなあ。」
「えー、そこお?」と、朱美が素っ頓狂な声を上げた。
お汁粉パーティーが始まった。
―完―
このエピソードは、既に他のサイトで公開した作品ですが、よろしければ、お読み下さい。