第2ー1話 『ドロップ』
濁って歪んだ世界。苦しい。生き辛い。アカリただ一人、体育座り。きっと出口はない。
沢山の人が笑顔でこちらを見てくる。写真を投影したかのようなリアルな表情。
(何でみんな幸せそうに笑っているの__)
脳から言葉が溢れる。
(私は不安で__)
目の焦点が合わない、合わせる気もない。
私の嫌いな先生が言った。
「また課題忘れたのか」
「自分が損をするんだぞ」
「これはお前の為に言ってんだからな」
「社会に出たらもっと大変なんだぞ」
私の嫌いな輩が言った。
「アイツ友達いんのかな?」
「保健室通いにいる訳ないじゃん」
「あ、頭にゴミ付いてる」
「アイツにはお似合いだ」
私の嫌いなクラスメイトが言った。
「ねぇ、ちゃんとしてよ」
「あなたのせいで周りが迷惑してるの」
「ほんと邪魔」
私の嫌いな母親が言った。
「今日も早退したの?」
「授業出ないと卒業できなくなるわよ」
「他の子が普通にできる事くらいしなさい」
「将来どうするの?」
「いつまでも子供じゃいられないのよ?」
きっと向こうも私のことが嫌いだろう。でも私の方がもっと嫌い。そんな私が嫌い。
(私がおかしいの? だったら、死んでもいいかな……)
「キーンコーンカーンコーン」
3限が終わり。保健室、アカリが寝ている仕切りのカーテンを開ける瞳先生。
「ハタベ〜、調子どー?」
瞳先生のシワがついた白衣をチラッと見る。何だか気の抜けたような姿がとても落ち着く。
「良く…ないです。」
渦巻く感情がアカリを無表情にさせる。
起き上がり、ベットに座るアカリ。
「今日も早退させてください」
「オーケー、ハットリに言っとくわー」
アカリの担任の先生を呼び捨てする。
「いつもすみません。」
「何がー?」
「いつも瞳先生に迷惑を…」
「生徒はそうゆーモンだろ、それに私暇だし」
「あと、あの薬品箱の中にお菓子入ってるから好きな時に食べていいぞ」
自由な瞳先生に密かに憧れを抱く。
「ありがとうございます。」
しかし、何も変えられない自分もいる。
「……。」
「元気ないなー! ヨシ! 私最近催眠術習ってんだ、もし良かったらやって__」
「大丈夫です。」
「そうか〜、そうだ!マッサージでも__」
「大丈夫です。」
「ったく、いつものか〜?」
「はい」
「最初はグー、ジャンケン__」
「ポン!」
チョキを出す瞳先生、グーを出すアカリ。
「あっち向いてホイ」
「ハッ!」
瞬殺される瞳先生。
「ホラ、これ持って早く帰れ」
瞳先生がりんご味の飴玉を1つ投げる。キャッチするアカリ。霧が晴れるように笑顔が溢れる。
「はい ありがとうございます。」
椅子に潜るように座る瞳先生。
(何が楽しんだか、)
そう思いながらも嫌な顔はしない。
「気をつけて帰れよー」
飴を嬉しそうに握りしめるアカリ。
保健室前の廊下で女子生徒とすれ違う。女子生徒は保健室に駆け込む。
「失礼します、3ー1の章野です。体育で膝擦りむいちゃって絆創膏もらいにきまし
た。」
「おっけー、ちょっと待ってねー」
「私の血すぐ止まるから大丈夫って言ったんですけど、友達にいいから行けって言われ
て」
「えーと確かここら辺に」
「授業遅れちゃうんで私も一緒に探しますね!」
お菓子を隠してあるところを探すアズハ。
「あ、いやちょっ!」
発見。
「これは旨辛ポテトチッ__」
「シッー!」
俯くアカリにシャワーの雫が降り続ける。全身に水滴が這うを感じながら目をそっと閉じる。
真っ暗な世界に瞳先生から貰った飴が浮かび上がる。無表情の自分の顔が鏡写しで飴玉に写る。切り替わり笑顔の自分が映し出される。瞳先生の前で出る様々な自分の笑顔。
「私は何がしたいの……」
死にたいと思っていたはずの自分にとめどなくシャワーが打ちつける。床に崩れ落ち嘔吐する。
(私は幸せになりたい)
必死に手を伸ばし自分の笑顔を掴もうとする。
(どうしてこんな単純なことが)
自分の手首をカッターで切りつける。
(叶わないんだ……)
飲み込まれそうな暗闇に立ち上がることが出来なくなる。
悲しい顔さえ出来なくなるアカリ。水滴とともに涙が全身を伝う。
保健室にいつもの空気が流れる。
「またか、」
「はい」
「よっしゃ! じゃんけんっ__」
帰り道、いつものように早退するアカリ。手には飴、今度はみかん味。
(瞳先生、本当弱いなー)
微笑みながらポケットに飴を大事にしまう。
「?」
ポケットからエナジェクターを取り出すアカリ。
(何、これ)
「カーン カーン カーン カーン」
アカリの事を背後からジーとみるムフロンアビル。気配を感じとっさに後ろを放り向く。その瞬間、ムフロンアビルに飛び蹴りをかますリィアナャーコ。
「ナャー!」
小柄なナャーコが軽トラサイズのムフロンアビルを吹き飛ばす。
《リィアナャーコ、斜々羅リッカ登場!!》
濃いピンクの衣装に白いもふもふの毛の装飾。猫耳と尻尾がチャームポイント。絶妙に気持ち悪いお面をつけていて顔は見えない。
「アレ、アンタもプラリィア?」
「プラリィア…?」
「もしかして初めてかなゃ?」
「よ〜し、アタシが簡単にプラリィアについて説明するから一緒に協力してアビルを倒してほしいなゃ!」
「いや、えーと…」
「まずこれがエナジェクターで__」
《以下省略!!》
「さぁ、変身するなゃ!」
偉そうに腕を組むナャーコ。疑心暗鬼のままエナジェクターを握りしめるアカリ。
眩い光に包まれ変身。
ローブの裾を突風になびかせながらネクタイを片手でキュッと締め顔を上げる。
「リィアリムス」
エナジェクターで液体を注入し噴射口のついた大層な槍を武装する。
はじめてとは思えない手つきでムフロンアビルの頭部を致命傷を与える。
「ヴァ〜」
頭部から血を流すムフロンアビルを無表情で見つめるリムス。
「今なゃ!」
ムフロンアビルの背後から飛びかかるナャーコ。ムフロンアビルの首に向け両手から蔓を伸ばす。
「ナャハハハハハ!」
ムフロンアビルの首を下品に笑いながら締め付ける。
《秘技!首絞め!!》
頭が垂れ、息絶えるムフロンアビル。ドテッと倒れる。
「どりゃ〜大量ポイントゲットー!」
「ポイント?」
「アビルを殺した奴にポイントが付与されてそのポイントを0にするのがプラリィアの目的なゃ! さっき言い忘れたなゃ♡」
「私をいいように利用したのか」
「そ、そんな怖い顔するなゃよ」
リムスの黒目に飲み込まれそうになり焦るナャーコ。
「じゃ、アタシはこれで!」
「…。」
《リッカパート終了!!》
再び帰路を歩くアカリ。
(不幸な人間がプラリィアに選ばれるって言ってたな…)
救済の力により少しだけ生きる自信が付く。
(やっと私は報われたんだ。)
(私が悪いんじゃない、ありのままの私でいいんだ。)
そう信じ歩みを進める。
「おーい」
「君、ちょっと一緒に遊ばない?」
背後から大学生ぐらいの男2人が声をかけてくる。
「…。」
無表情で振り向く。目の奥に冷たい血が流れる。
人気のない公衆トイレ。日も落ち蛍光灯には小さい虫が集る。
男子トイレに連れ込んだアカリを見てニヤつく男2人。
(物静か、細いカラダ、こいつはイケるぜ)
「…。」
「顔けっこータイプなんだけどさ〜、一回だけヤらせてくんない? ここまで来たって事はそっちも気あるんしょ?」
強欲な下心が前のめりになる。
「これまでもそうやって色んな女性に…」
「ガマンできなくなったらするぐらいだよ」
(ハメさえ撮りゃみんなゆうこと聞くんだよ)
「ヒロト〜、手伝ってくれ〜」
そう言われ、男1人が慣れた手つきであかりの口と胴体を押さえる。その隙にもう1
人が服を脱がそうとする。
ガタイの良い男に対しがむしゃらに抵抗するアカリ。その反動で制服から瞳先生から貰った飴が落っこちる。
「!」
「ん?」
男がひょいと飴玉を拾い上げる。
「アメ? ババアかよ」
あしらう様に笑う男達。
「返せ」
アカリの感情が段々怒りに塗り替えられていく。
(何でこんな奴らが幸せそうに笑ってんだ)
「俺に付き合ってくれたら返してやるよ」
「返せ」
(何でこんな奴らがのうのうと生きてるんだ)
「だから〜」
「返せって言ってんだろ!」
怒りが激情し眼光がはち切れそうになる。勢いのままに変身するアカリ。
男2人に焦点を合わせゆっくりと近づいていく。
「なんだコイツ」
「なんだよ」
「゛あああぁー!」
「痛い」
「゛いだぁーい」
「許して、やめて」
「痛い」
「゛あああぁー」
「ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい」
「あぁ 助けて! 助けてー!」
「うっ゛ああぁーー」
「ぇん…な…さ___」
街灯の下、アカリの両手の手のひらに乗っている飴。飴が光に反射し宝石のように輝く。優しくぎゅっと包み込み胸に当てる。瞳先生を想い、心が和らいでいくアカリ。
(瞳先生、)
そっと瞼を落とす。
(私、自分の力で幸せになる人間になります。)
名前 プラリィア名 キーポイント
晴ノ日ソラ リィアクラーカ 艶やかな美人
月島レイ リィアジッカー ??????
伊藤ルリコ リィアハナビ 富
章野アズハ リィアセシィ 自尊心
天馬ハルキ リィアワビー 温和
斜々羅リッカ リィアナャーコ ??????
旗部アカリ リィアリムス 明るい未来