第3ー5話 『晴天の先は』
ライブ開演前、すでにコンサートホールにはSunShineの熱気が立ち込める。お金を貯めたアズハとショウコも会場に足をはこぶ。身に纏うリトリリグッズが気分を高揚させる。
「ソラさんの初センター曲、超楽しみ〜！」
「こないだのバトルの映像がネットで拡がって大半がデマだって信じてくれなかったけど、一部の人の心には届いてここまでになったんだよね！」
クラーカとグラウアーゴリラアビルの大激戦、胴上げされるソラの映像。
「嬉しいような〜、寂しいような〜」
想いを馳せるショウコを横目に微笑むアズハ。
「カーンカーン カーンカーン」
（外か！？ こんな時に！）
「いや、私は嬉しいよ。でも、こう有名になると雛鳥が巣立つじゃないけど少し寂しい気持ちになるっていうかでもメディア露出が増えるから実際は見れる機会が増えるんだけど〜＿＿」
語りが終わり、ショウコが目を開ける。
「ってアレ！？ アズハ！？」
周りをキョロキョロしてもアズハの姿は見当たらない。
まだ暖かい風が吹く街の中、歩くアカリ。目線の先に瞳先生を見つける。
「！」
笑顔が込み上げ、手を振ろうとする。
「瞳せ＿＿んせ……」
瞳先生の前に見知らぬ男性が現れる。アカリの顔が固まる。見たことのない笑顔をする瞳先生。上げた手を下ろし、アカリの手に気力が無くなる。瞳先生と男性が手を繋いで去って行く。
イリエワニアビルの眼に映るライブ会場。
「ガゥゥゥァ」
涎を垂らしながらライブ会場にのしのし歩く。奥の桜並木から花びらが風に乗って飛んでくる。イリエワニアビルの前に立ちはだかるアズハ。
「今日はソラさんの晴れ舞台なんだ」
会場内ではOvertureが流れリトリリが入場し盛り上がる。人生最大に真剣なソラ。
「邪魔はさせない」
人々を守るため、ソラの夢を守るため、アズハがエナジェクターを構える。
スポットライトがソラに集まる。
「聞いてください『晴天の先は』」
リトリリのパフォーマンスが始まる。
『曇り空 気づけば土砂降り』
『正直に言えば壊れてしまうあの頃の私を抱きしめたい』
大鎌を振りかざすセシィ。イリエワニアビルの素早さになかなかついていけない。
『明確に夢があるはずなのに』
エナジェクターを5本注入し体と武器を強化する。
『強い向かい風が吹いて立っているのはあの電柱くらい』
リトリリの力強いフォーメーションダンス。
『それでも立ち向かって何度も陰り払って』
ソラの強い瞳。
『私は強くなると』
同じく強い瞳のセシィ。
『弱さが教えてくれた 想いはいつの日も綻ばない』
大鎌を振りかざすが、やはり避けられてしまう。
『未定のこれからに』
地面に大鎌を突き刺さる。
『背伸びしなくても届く場所に』
喉を震わせ、魂で歌う。
『桜が散る前にここまで来たんだよ』
突き刺した刃を軸に時計の針のように回転し、イリエワニアビルにキックする。
『喜びはまだしない。だって「ここから」だから』
『私を信じてる君を信じてる』
盛り上がる会場。ショウコが周りのオタクに負けじとペンライトを振る。
『傘に入ることが出来ずとも いつか芽は開くと』
セシィに飛び掛かるイリエワニアビル。
『目が回るほどのハレを頂戴よとケな毎日』
口元を狙い鎌を振り、イリエワニアビルの歯が抜け落ちる。しかし、生え変わり歯が強化される。
『振り返れば子供の言』
イリエワニアビルの咆哮にセシィの体が押される。ジリジリとコンサートホール側に近づかされる。
『痛みが教えてくれた もっと丈夫な明日になる』
振り付けの一部とは思えないほどのソラの自然な笑顔。
『笑顔でこれからに 背伸びしなくても届く場所に』
しかし、疲れは確実に蓄積し呼吸が上がる。
同じく呼吸が上がっていくセシィ。
『桜が散っても綺麗だと言ってよ』
根性でイリエワニアビルの咆哮に立ち向かう。一歩ずつ一歩ずつ着実に。
『悲しみはまだしない。だって「これから」だから』
イリエワニアビルに大鎌をブーメランのように投げるセシィ。
『私は信じてる君を信じてる』
イリエワニアビルにヒットさせ、後ろの並木桜のところまで振り飛ばす。
『涙の後に虹が掛からなくても』
『いつか芽は開くと』
汗で頬に髪がへばりつくソラ。そんなもの関係ないほど綺麗な面。
『ふとした時、押し寄せる哀しみで』
表現者として一瞬たりとも気を抜かない。
『軽くなる美しさも いつか思い出になるかな？』
起き上がるイリエワニアビル。エナジェクターを追加で7本注入し、武器を強化する。セシィがイリエワニアビルに近づいていく。
『高鳴る予報』
刃を立てた状態の大鎌を地面に突き刺す。
『揺るがない笑顔』
ジャンプするために足に力を込めるセシィ。
『後悔なんてしないよ』
ジャンプと同時に大鎌の持ち手部分に下腿部から伸ばした蔓を下腿部ごと巻き付ける。コンパスについた鉛筆のように大鎌をセットする。
ソラの歌声を背に戦うセシィ、セシィの戦いを背に歌うソラ。
高くジャンプし、イリエワニアビルの両隣の桜の木の幹に両手から蔓を伸ばし、巻き付ける。反動で桜の花びらが舞う。蔓を縮め、口を開けるイリエワニアビルに向けキックするセシィ。大鎌の刃が高速回転しドリル状態になる。マントが広がり靡く。
『桜が散る前にここまで来たんだよ』
ソラが涙がこぼれないように歌う。
強靭な顎と歯で刃を受け止めるイリエワニアビル。互いの力と力のぶつかり合い。
『喜びはまだしない。だって「ここから」だから』
セシィのキックがイリエワニアビルを貫く。
『君を信じてる私を信じてる』
刃を鎌形状に戻し、火花を散らしながらドリフトのように勢いを弱める。
『どんな曇り空も眩しい笑顔で』
『いつか芽は開くと』
首に血管が浮き出るソラ。最後のポーズを決める。
『晴天の先は』
後ろからのライトで逆光なるリトリリ。ポーズがカッコ良く映える。会場全体が拍手に包まれる。安心感で口元が少しだけ緩むソラ。
登り始める夕日。綺麗なオレンジ色の空に張り巡らされた電線が邪魔をする。
俯きながら歩くアカリ。
「あんな笑顔の瞳先生、見た事ない……」
ぶつぶつ独り言のように言葉こぼす。
「でも……瞳先生が幸せなら……幸せなら……幸せなら……」
通行人のカップルに不気味がられる。
打ち上げ会場ファミリーレストランマリア。テーブル席で集うソラ、アズハ、ショウコ。
「乾杯！！！」
アズハとショウコ椅子席に座り、ソラはソファ席。テーブルには料理が敷き詰められている。
「本当にお疲れ様でした！」
「お疲れ様、今日は来てくれてありがとう」
「最高のライブでした！」
「途中までアズハいなかったでしょ〜！」
ショウコがアズハをジト目で見る。
「いや〜、お腹下しちゃって！ そのお詫びじゃないですけど＿＿」
「？」
「プレゼントで〜す！！」
2人がニコニコしながらプレゼントを渡す。
「！？ ありがとう！ でもどうして？」
「ソラさんの初センター記念と」
「プラリィア卒業記念ってことで用意してたんです」
「お金は私が多めに払いました」
「数十円ね」
カッコつけるショウコにアズハがツッコむ。その様子を見て笑うソラ。
「ありがとう。大事にするね」
打ち上げ終わりの夜更け。風呂上がり、部屋の電気をつけるソラ。喉を気にし、スチーム吸入機のスイッチを入れ、鏡を見ながらドライヤーをする。
「痛っ」
筋肉痛に侵された腰をかばう。
（今日は自分を褒めよう。よく頑張った）
仏のような表情になるソラ。髪を乾かし終え、鏡越しにさっきのプレゼントが目に入る。
（そういえば中身聞いてないな……）
プレゼントを軽く振ったり、匂いを嗅いだりする。
（わからない……）
プレゼントの箱を開ける。
「え、これって＿＿」
驚愕するソラ。
（かわいすぎる〜！）
プレゼントを両足に履く。
（似合ってるかな？）
「そうだ！」
（みんなに見てもらお〜っと！）
スマホを手に取り、SNS開く。
「何でこいつがセンターなの？」
「ユキノちゃんが良かった〜」
「リトリリ終わったな」
「この子こんな顔だったっけ？」
「曲は良き」
「次はミズキちゃんが良いなー」
「顔変わったよね？ 絶対整形してる」
「運営に媚び売ったらセンターになれるのか……」
「裏口入学」
「数年でこんなに顔変わるか？」
「顔は綺麗だけど性格悪そう」
「センター変えたら100点なのにな〜」
「やっぱり初期のリトリリ方が良い」
「もうリトリリ見ない」
そこにはソラに対する大量の誹謗中傷。
「……」
言葉を失う。そしてソラが最後に見た言葉。
「もうリトリリ見ない」
「ガタッ」
倒れた椅子とゆらゆら揺れるソラの足元が鏡に映る。足にはプレゼントのパンダの靴下。
アカリの部屋の窓に雨粒が激しく当たる。暗い部屋で体育座り。瞳先生からもらった飴を握りしめるアカリ。
自室のベットで呆然とするアズハ。魂が抜けたような顔。右手のスマホにはソラが首吊り自殺をしたニュースが映る。
泣き止まない土砂降りが街中を濡らしていく。
名前 プラリィア名 キーポイント
月島レイ リィアジッカー 快楽
伊藤ルリコ リィアハナビ 富
章野アズハ リィアセシィ 自尊心
斜々羅リッカ リィアナャーコ 自由
旗部アカリ リィアリムス 明るい未来
唐堂ハルカ リィアルビア ？？？？？？
