ハズレ能力
「その他、今使える能力には何がある?」
「『植物魔法』『基本魔法』それから208がくれた『ルーレット』だ」
「ああ、だからその体の元の持ち主は家督争いに負けたのか……」
「どういう意味だ?」
「帝国は俺がいた時と何にも変わっていないということだ。いまだに一つ一つの能力を理解せずに攻撃力のある能力だけを優遇しているのだろう」
「能力で差別があるってことか?」
「だから植物魔法と心身強化持ちだったその身体の元の持ち主は、遠くの領を治めるように家から追い出されたのだろうな。まったくこの国の人間どもは何百年も阿呆なことをしている」
ヤドが言うには、植物魔法や心身強化はセカンダリー魔法と呼ばれており、この国ではハズレの魔法だという。ここに来てまで第二希望の呪いかよ。
「それなら、アルスはなぜ殺されたのだ?」
「さぁな。そんなの知らねぇ」
聞けば、ヤドもその昔、髪を操る能力しかなかった頃は帝国で大層差別されたそうだ。
「髪を操る能力、なんだか凄そうだが。違うのか?」
「まぁ、一生禿げることはないな」
「お前、いきなり笑いをぶっこんでくんなよ」
ヤドはその後、十歳の時に役に立たないと実の親に隣国に一人置いて行かれたという。酷い話だ。
「そのおかげで、俺の師匠とも出会いがあり、隠れていた潜在能力を開花できたのだがな」
通常、現れていない魔法や異能力の後天的な開花はごく稀だという。俺の場合『召喚魔法』『縮小魔法』『占い』がそれにあたる。稀なだけで可能性はゼロではない。現れている心身強化や植物魔法の枝分かれした潜在能力は努力次第で取得できる可能性は高いという。
「ともかく、今ある能力を伸ばせってことだな」
「そうだな」
頭に浮かんだ植物魔法に集中する。
【植物魔法】―【蔓生成】―『植物操作』―『植物記憶』―『種生成』―『葉刀』―『草生成』―『木生成』―『花生成』―『毒植物』―『植物モンスター』
物騒な能力も含まれているが、かなり有能じゃないか。それに葉刀、これは攻撃魔法だと思う。
枝分かれは他にもたくさん続いているが、一生のうちにこれを全て取得するのには相当な努力が必要そうだ。
「俺は植物魔法も十分に使える能力だと思うがな。そう理解されていないのは不思議だ」
「普通の人間は潜在能力まで見えないからな。植物魔法は何が使えるのだ?」
「今のところ、蔓生成だけだ」
集中しながら蔓を思い浮かべると、身体から蔓が現れ腕を回りながら徐々に長くなり砂浜に蛇のように落ちていった。
「初期の植物魔法だな。元の体の主はこの魔法を鍛えてこなかったようだ。自分の意志で蔓が操れるように鍛えないとな」
「潜在能力には『植物操作』があるが、俺の意志で動くようになるのか……分かった」
俺の意志で動くのならば足ひっかけや首絞め、それに人体の内側に入り込めば、蔓も十分な攻撃魔法だと思う。ともかく最初の一歩として蔓を操るようにならないとな。
次に基本魔法。ヤドによるとこれは大部分の人が持つ能力だという。
【基本魔法】―【灯】―【火】―【水】―『洗浄』
前世のラノベとかであった生活魔法か。火を思い浮かべながら掌に集中すれば、ライターのような小さな炎が指先から現れた。
水も試してみれば、ヤドほどではないが少量の飲み水を確保できた。味は――
「不味くも美味しくもないな。ヤドの水のほうが美味い」
「だろ」
満足気にヤドが笑う。
その後、灯を試すとランプのような光が現れた。洗浄はまだ使えないが、これは絶対に取得したい潜在能力だ。
次にルーレットなんだが……頭に浮かんだものに困惑する。
【ルーレット】―【1段階】―『二段階』―『三段階』―『四段階』……
無限に続く段階だが、これはレベルのようなものかもしれない。
「これ、どうやって使うんだ?」
「208が出したルーレットを思い浮かべながら念じてみろ」
「そんなので出るのか?」
「やってみたら分かるだろ」
半信半疑で208が出したルーレットを頭に浮かべ、強く念じる。
「こい! こい! こい!」
ポンと音を立て現れたのは、208のルーレットと同じ大きさのものと一つのダーツ。
ルーレットにある当たりを見ながら眉間に皺を寄せる。
「選択肢が小石かタオルしかないのだが……」
「なんで俺を非難するように見るんだ。鍛えるしかないだろ」
鍛えるって……ダーツを投げ続けろってことか?
とにかく、一度ダーツを投げるか。
ルーレットに向かってダーツを投げれば、小石の選択肢に当たる。
『パッパラパー、小石が当たりました~』
幼女の声で機械音が流れ、目の前に小石が落ちるのを慌てて掴む。
手の中の小石はどう見てもただの小石だ。ルーレットから再び幼女の声の機械音が流れる。
『また明日も遊んでね!』
「へ?」
待ってくれ。これが俺の特別に貰った能力なのか? こんな小石、その辺で拾えるぞ。どうせなら、小石よりもタオルが良かったのだが……。
それにこのルーレット、一日一回なのか? クソ能力なのでは?
小石を握ったまま硬直していると、ヤドが肩を軽く叩く。
「悲観するな。今後、役に立つものが出る……はずだ」
「本当か?」
「ああ……」
ヤド、そんなに目を逸らしながら言われても不安しかない。