話が違う
「おい! おーい! 起きろ!」
「痛っ」
顔を突かれて目覚めると、顔の上に乗ったヤドカリに見下ろされていた。
「おい。起きたか? ちゃんと俺を覚えているか?」
喋るヤドカリ――ああ、そうだった。転生したのだった。
ヤドカリの風貌は以前の赤い殻から綺麗な紫と白のグラデーションに変わり、本体はピンク色という派手な外見だった。なんだ、その色は……。
それに、こいつ、間近で見ると思ったより大きな。
「おい! 何か返事しろ!」
おお……この匂い。
磯の香りが鼻を刺激する。叫ぶヤドカリを無視、起き上がり辺りを一望すれば晴天の海が目の前に広がったコバルト色の美しい海にしばらく目を奪われるも、すぐにため息を吐く。
「他の島もなんもねぇな。どこだよ、ここ――は?」
これ、俺の声ではない。
「あ、あー、チェックチェック」
透き通るような少年の声に慣れず、何度も声を出しながら確認する。
声に少し慣れたら、覚えている自分のものではない綺麗な手が目に映る。
「綺麗だけど少しぽっちゃりしているな」
海の浅瀬に浸かっている足に視線を移せば、靴は片方しか履いていなかった。
なんか、足が太くないか?
ヤドカリが太ももの上から俺を見上げる。
「おーい! 大丈夫かぁ? 覚えているか?」
「あ、ああ。ちゃんと覚えている」
「返事がないから焦ったぞ」
「すまん」
「いいさ。それより早く水辺から上がるぞ」
立ち上がる前に身体を確認してギョッとする。
「なんだ、これ!」
風がやけに胸元を掠ると思っていたら、着ていた汚れたジャケットの中の白シャツには何か所も穴が空き、血が滲んだシミが広がっていた。
急いで胸を触り身体を確認するが、特に怪我はしていないようだ。
「208が綺麗に身体を治してくれたようだな。しかし穴の数を察するに前後からめった刺しされたみたいだな。酷いことするぜ」
ヤドカリが俺の背中を確認しながら言う。
そうだった、これは俺の前の身体ではない。アルスという暗殺された十五歳の少年の身体だ。こんな何もない場所に打ち上げられたのなら、大方、殺されて海に捨てられたのだろう。
208はアルス少年の能力を受け継ぐと言ったが、記憶は受け継いでいないので実際に何があったのかは分からない。
確かに刺されたことは気になるのだが、それよりも気になることがある。
「このわがままボディはなんなんだ!」
まず腹のせいで足が見えない。
起き上がるのに一苦労しながら浅瀬に反射する顔を確認、その巨体にギョッとする。
「デブじゃねぇか! 何キロあんだよ、この体!」
叫ぶと、息切れを感じた。
208、あいつ、ふざけんなよ。比較的若い個体で高い能力を持った個体の話はどうなったんだよ!