運が試される時
208からヤドカリを受け取れば、腕を伝って肩へと乗った。腕がこそばゆい。
「では匠海さん、向かう惑星で使える能力を選びましょう」
「選べるのか?」
「こちらで選びます」
208が横にいきなり現れた巨大ダーツルーレットを指差しながら言う。
「ルーレット?」
「はい、ルーレットです」
ルーレットには細かい文字で火炎魔法、創造魔法、剣技などが記してあった。百以上も分けてあった項目はすべて読むことはできなかったが、魔法の他にも異能の選択肢もあるようだ。この選択肢はゲームやラノベの世界のような話だ。
「本当、ファンタジーな惑星なんだな」
「はい。惑星地球では別惑星を模範した物語があると聞きましたが、まさにそのような惑星です。たまにいるのですよね、別惑星へと輪廻する方が。どこか潜在的な記憶が残る個体がいるのでしょうね」
地球で生まれた元別惑星出身者がいるのか……。
俺が向かうのは地球と別の銀河系に存在する惑星で、俺が想像できないほど地球から離れた場所にあるという。
「それで、俺はその惑星で生きていくだけでいいのか?」
「はい。それ以上は何も求めません」
208が俺の向かう惑星の説明を始める。
行先の文明は地球とは異なる進み方をしているが魔道具や船もあるという。魔法を使う者が多く、地球にいる人間と似た人種の他に亜人や魔物も多く生息しているという。
「――乗り移る個体の潜在能力はそのまま引き継ぎ、お詫びとしてもう一つ、ルーレットから能力を授けます。以上が匠海さんの転生についての説明です」
「丁寧に説明をありがとうございます。それで、能力をそのルーレットで選ぶということだが、どうせなら自分で選びたいのだが……」
「却下ですね。こういう決定は運と決まっていますから」
「は、はぁ……」
これは交渉する余地なさそうだな。
俺、運関係はそんなに良くないんだが。
なんだか運任せということに納得できないまま、208から矢を受け取る。
「それでは矢を投げてください」
「矢が当たらなかったら?」
「矢は外しても必ずルーレットに当たります」
渡された矢はどこにでもあるような普通の物だ。こんな小さな矢に俺の今後の運命が掛かっているのか。
矢、頼んだぞ。
半信半疑で矢を投げれば、巨大な的から逸れ海へと飛んでいった。微妙に恥ずかしい。
「心配すんな。見てろ」
ヤドカリがはさみを指す方向を見れば、海に逸れた矢が大幅に迂回しながらルーレットに刺さる。他の選択肢よりも一際狭い場所に刺さり、俺の位置からだと何が当たったのかは見えない。
矢を回収に行った208が一瞬手を止めた気がしたが、矢を抜きにこやかに告げる。
「おめでとうございます。ルーレットが当たりました」
「は?」
ルーレットをして、ルーレットが当たったってどんな冗談だ。
「引きがいいですね」
「へ? どういう意味だ」
「詳しくは肩にいる彼に尋ねてください。もうすぐ時間です」
どうやらアルス少年の体に乗り移る時空窓があるようだ。208が白浜に円を描き、俺たちを円の中へと急かす。
縁の中に入ると、急にヤドカリが肩から叫ぶ。
「おい! この能力、下手したら俺は一生下界じゃねぇか!」
「私が選んだ結果ではありません。運命のルーレットが選んだ結果のルーレットスキルなのです。それでは時間ですね。検討を祈ります」
ヤドカリはまだ叫んでいたが、208が手を上げると徐々に視界が狭くなり瞼が重たくなった。
匠海がいなくなった場所を見ながら208が呟く。
「まさかアレが出るとは……運が良いのか悪いのか。ですが、彼ならそうそう悪用はしないでしょう」
208は再びタイプライターの前に座ると、砂浜から消えて行った。