遊泳は危険付き
平泳ぎは、日々の努力から少しは泳げるようになっていた。前世と比べると天と地の差だが……。
正直、波に押され、うまく身動きが取れずに泳ぐのは難易度が高かった。だが、泳ぎはこれ以上に上達しなければ、この島から脱出したとしても魚の糧になるだけだよなぁ。
ヤドの水魔法に乗る練習も開始した。だが、こちらは散々だった。なぜか毎回、波から転げ落ちてしまう。水魔法に乗るのは、サーフィンのような感覚でバランスが重要だ。だが、アルスボディはバランス能力が低い……決して皆無ではないが、低い……。練習中に一度だけ、ようやく乗れたと思った瞬間にバランスを崩し豪快に海に投げ出された。
「危うく、この島を出る前に死ぬところだったな……」
砂浜で休憩しながら呟くと、頭の上で休んでいたヤドが言う。
「俺の水魔法も常に出し続けるのは無理だ。アルスが波に乗ることができれば、それなりの距離を稼げるが……距離次第だが、海を越えて別の島までって話なら魔力が持たないだろうな」
「まぁ、そうだろうな」
現在地は、ヤドが当初想定していたよりも遠くにある島のようだ。一応、数日前にヤドが水魔法に乗り一日かけて辺りを検索したが、人どころか、島らしき場所もなかったという。その代わり、海の深い場所には魔物などがいたという。全然嬉しくない話だ。
人がいる場所まで何日……何週間……何か月かかるか分からない。ここから脱出できるのか……?
悲観的なことを考えても仕方ない。やれることをやるしかないだろう。浅瀬なら魔物はいないということだった。
「ヤド、また水魔法に乗る練習を頼む」
「ああ、もちろんだ」
「助かる。ありがとな」
再び平泳ぎで海に出る。
気合が入っていたのか、いつもより遠くに出てしまう。魔物の話を聞いたばかりなので、焦りながら浅瀬に戻ろうとすれば波に攫われる。
「アルス、このままだと深い場所に行くぞ! もっと浅瀬に水魔法で押すから顔だけ出しておけよ」
「悪い。頼む」
この先はいきなり深くなっているな。これ以上進んでいたら危なかったな。そう思った瞬間に何かに足を引っ張られ、水の中に引き込まれる。
「がぁ!」
必死に浮遊しようと暴れるが、その努力むなしく深い場所へと引き込まれる。右足を見ればワカメのようなものが巻き付いていた。
【ラージウンダリア】
レア度★★★★★
海底に生存し、動く動物を捉え捕食する
食用可
この世界の植物は人喰いが多過ぎだろ!
「今、解放してやる!」
水中でヤドの声が聞こえると、足が軽くなっていた。どうやらヤドがワカメを切ってくれたようだ。急いで空気を吸うために浮上しようとするが、もう少しで海面というところで再び足を掴まれる。今度は先ほどよりさらに深い場所へと引き込まれる。
息がもう限界だ……。
ヤドが一生懸命に水の攻撃をする姿を、目を見開いたまま眺めながら沈んでいく。身体が動かない……やめてくれ、まだ死にたくない。
そう強く願うと、脳裏にヴォンと音が鳴った。