ヴァノミアの蔓
ヤドにヴァノミア退治の計画を共有する。
俺の計画はヤドの水魔法であいつを沈め、水分過多で枯れさせることだ。だが、計画を実行する前にあのヴァノミアという魔物が本当に水分過多で弱るのかを検証しなければならない。雄だと思うアロエっぽい部分を一本、蔓を使い根っこから引き抜くと、赤い花から頭に響くような奇声が発せられた。
ヴァノミアの花が高く上がると、本体であろう丸い針のあるサボテンと大量の蔓が現れた。
サボテンは風船のように膨らむと、一気に針を周辺一帯に炸裂させた。
木に隠れていたからよかったものの……危なかった。
抉るように気に刺さっていた針を観察すれば、針の上に文字が浮かび上がる。
【ヴァノミアの大食い花の棘】
レア度★★★★★★
誘眠作用液付きの針
恐ろしいな。この棘で周囲の生物を眠らせて回収した後、食うのか。
レア度は本体より高い。ハーレムの男を盗まれたのがよっぽど気に障ったのか。
粗品タオルを使い、木に刺さっていた棘を抜く。
ヤドが棘を見ながら渋い顔をする。
「こんなのが刺さったら怪我じゃ済まないな」
「誘眠作用が付いているらしい」
「刺さったら普通に死ぬだろ」
俺もそう思う。
棘をマジックバッグに仕舞うと、蔓を使いあちこちを叩き始めたヴァノミア……雄を取られて完全にキレているな。だが、俺の居場所は把握できていないらしい。見当違いの場所をこれでもかと蔓で叩くヴァノミアを背後から観察する。
……こいつ、見えていないな。
ルーレットで当たった小石をひとつ遠くに投げると、ヴァノミアの蔓は音の鳴った方へと敵意を向けた。音で反応しているのは間違いないな。
小石を四方へと投げ、ヤドに声を掛ける。
「よし、逃げるぞ」
走り出すとすぐにヴァノミアの蔓が何本か追いかけてきた。植物操作で俺も蔓を生成、ヴァノミアの蔓を止めようと向かわせれば、蔓が全て一時停止する。
「へ?」
なぜか俺の蔓と共にヴァノミアの蔓も操ることができた。
ヴァノミアの蔓を操作しながら絡ませ、動けなくする。
これは……このまま蔓を全て絡ませられるのではないかと口角を上げたが、ヴァノミアの蔓が次々と百本以上押し寄せてくる恐怖に自ずと後ろに駆けだした。
「怖いって!」
「よい判断だ。生態が分からない物と無理して戦うな」
ヤド、俺の自尊心ケアをありがとな……。
走るのはまだつらいが、特訓のおかげで無事にヴァノミアの蔓から逃れ砂浜へと戻ってきた。
「はぁ、はぁ。撒けてよかったけど、なんだよあの蔓の数!」
「肩から観察していたが、アルスが走り始めて数分が蔓の伸びる限界のようだ。木に水の刃で切り傷を入れておいた」
「流石だな。俺は逃げるのに必死で、そんなこと考える余裕なかったよ」
マジックバックに入れた、ヴァノミアの雄を取り出す。
【ヴァノミアの大食い花(雄)】
レア度★★★★
火傷の薬になる
クネクネし始めたヴァノミアの雄から、白い濁色のドロドロしたものが溢れる。
「なんだか気持ち悪いな」