蛇使い
早速梅干しの瓶を開け、一粒味見する。
「おお、美味い」
甘酸っぱいはちみつ梅だ。大粒三個入りは小石や粗品タオルよりもアップグレードしている。
ヤドが訝しげに尋ねる。
「そんなに美味いのか? 見た目は、なんだか食欲をそそられないが……」
「少し食ってみろ」
ヤドの前に千切った梅干しを置く。しばらく梅干しの前を行ったり来たりしたヤドが、梅干しをはさみで掴み口に入れる。
「うわっ。甘い、酸っぱい。どっちだ! 思った味と違うな」
「嫌いか?」
「変わった味だが、悪くない」
ヤドが、はさみに残った梅干しを酸っぱい酸っぱいと舐めながら完食する。意外となんでも食べられる系なのか?
昼飯の魚に付けて食べるのが楽しみだ。
今日の蔓生成を行う。昨日より一本多い五十本を達成した。その後は水中トレッドミルを使い、浜辺をグルグルと三十分運動する。
この十日間で腰回りの肉が少し減った。おかげで自分の尻に苦なく手が届くようになった。それまでどうしていたかって? 海でどうにかウオッシングだよ。そもそも海で用を足している。穴を掘ることも考えたが、巨大な海があるんだ。その方が楽だった。
浜辺で小さなカニを追いかけまわしていたヤドに声を掛ける。
「スコールが来る前にベッドを片付けるぞ」
毎日十一時頃にやってくるスコール、生成した蔓で作ったベッドが濡れないようにヤシの木の下に置くようにしている。ヤシの木には実がなっているので、寝ている間に落ちてくるのが怖く、普段は頭上に何もない浜辺の上でこの蔓ベッドを敷いて寝ている。
ヤシの実は、緑っぽくたまたま落ちていたのを開けると、ココナッツウォーターが入っていた。水には困っていないので、実が熟すまで待つ予定だ。
急に辺りが暗くなる。
「降ってきたな」
今日のスコールが始まったので、ヤシの木の下に避難をする。
スコールの突風には、もう慣れた。この時間を利用して蔓を生成する。
蔓が蛇のように毎回腕から回りながら生成される。これがなんだか自分が蛇使いになったかのように気分にさせる。
ひょうたん笛の音を真似ながら歌っていると。蔓の一つが上に伸びているのに気付いた。すると、ヴォンという音と共に頭の中で植物操作の文字が現れた。
これは! 急いで植物魔法の確認をする。
【植物魔法】―【蔓生成】―【植物操作】―『植物記憶』『種生成』―『葉刀』―『草生成』―『木生成』―『花生成』―『毒植物』―『植物モンスター』
「おおおおおお! よっしゃ!」
拳を上げ、スコールの中一人喜べば、ヤドが驚きながら尋ねる。
「急に大声を出してどうした!」
「植物操作ができるようになったんだ!」
「本当か!」
ヤドが自分のことのように喜ぶ。このヤドカリのことは十日ほどしか知らないけど、なんだか昔からの知り合いのように接している。
「どんな感じに操作できる? 見せてくれ」
ヤドに急かされたので、先ほどの蛇使い蔓を見せようと念じる。すると、念じ過ぎたのか蔓が急上昇してスコールの突風に巻き込まれ空高く舞い上がった。
「まだまだ調整が必要かもしれない」
「だな……」