水中トレッドミル
休憩のために砂浜に座り、蔓を生成しながら海を眺め呟く。
「これが、スローライフってやつか……」
目の前の蔓の束で籠を編みながら、ヤドに尋ねる。
「この蔓ってどこから来てるんだ?」
「俺の水魔法も含め、知っている限り解明されていないな」
「そうなのか……」
この世界の人間は、魔法は放てば現れるって感覚なのだろうか? よその世界からきた俺は違和感だらけなんだが。
それから再び歩き、ようやく目印に置いていた貝まで辿り着くと仰向きに倒れる。
「疲れた……」
足腰がすでに痛い。これ、明日は歩けるのか? もう少し身体の負担を軽減する方法は……そうだ!
「ヤド、頼みがあるんだが。俺が入れるサイズの水玉を出してくれないか?」
「ん? そんなことでいいのか? ほら」
ヤドの巨大水玉が現れる。
やるのは水中トレッドミルだ。
「よし。じゃあ、入るぞ。俺が溺れそうになったら水玉を解除してくれ」
「ああ」
そっと水玉に入ると首だけ水玉から出し、水玉の中で立つ。足さえつけばこっちのものだな。
「足元のから俺の足を出せるか?」
「こうか?」
「いいな」
砂浜に立つが、水に浮いているおかげで先ほどとは比べもならないくらい体が軽い。
試しに歩いてみれば、狙い通り足腰への負担はかなり軽減した。
「これが普通に歩く感覚だよな」
「普通ではないけどな」
「これで痩せられるぞ」
「これでか?」
ヤドは水中トレッドミルの効果に懐疑的のようだ。
「明日から、しばらくこの水玉を頼めるか? これならより運動ができそうだ」
「構わないが、本当にそんなもので痩せるのか?」
「まぁ、みてろよ」
それから十日、ほぼ毎日同じ生活を送った。起床して蔓生成をしたら、水中トレッドミルで散歩。再び蔓生成してストレッチからの散歩。たまにヤドの貝狩りや蔓で作った竿で魚釣りをした。魚は釣れなかったが……。
スコールは、数日に一度起こった。大体の時間は同じで午前中に起こることが多かった。
十日しかたっていないので、まだデブだが動くのは少し楽になった。水中トレッドミルなら無人島をぐるりと回っても息が上がることはなくなった。進歩だと思う。
蔓生成もこの十日で五十本近くまで出すことができた。ヤド曰く、短時間でこの著しい成長はレアだという。
「植物操作はまだできないけどな」
「まぁ、焦んな」
代り映えのない蔓生成はそろそろ飽きた。蔓を動かそうとここ数日は集中しているが、びくともしない。
それでも毎日の蔓生成のおかげで、蔓ベッドを編めるくらいには蔓を生成した。枕はジャイアントクラムの殻だ。殻は硬いが、ルーレット連続して当たった粗品タオルを巻いたら快適だった。
今日も粗品タオルを当てるために、ルーレットを出し驚く。
「増えてる……」
ルーレットの選択肢がひとつ増えていた。今まであった小石、タオルに加えて梅干しが追加されていた。
梅干し……
一気に口の中に唾液が溜まった。なんで梅干しという選択肢なのか疑問だが、マジックバックに入っていた調味料も少なくなってきていたので正直嬉しい。
ヤドが、ルーレットの増えたマスを凝視しながら尋ねる。
「ウメボシってなんだ?」
「丸い梅っていう果物を塩漬けして干したものだ」
「美味いのか?」
「俺は好きだけど、酸っぱいから好みは分かれるかもな」
矢を投げれば梅干しに当たる。よし!
落ちてきた瓶をキャッチすると、大き目の梅干しが数個入っていた。