漂流物
ジャイアントクラムで腹いっぱいになった。まだまだ貝は余っているので、数日はこれを食って過ごせそうだ。
飯が終わると、蔓生成をする。少し慣れてきたのか、最初に比べれば蔓の生成スピードが上がったような気がした。四十一本で背中がやや吐き気がしたので、生成を止める。
「よし、散歩に行くぞ」
できればランニングをしたい、とにかく早く痩せたい。でも、焦りは禁物だ。今日の目標はこの島をぐるりと一周回ることだ。俺の予想では一時間ほどあれば、俺の亀歩きでも回れるのではないかと予想する。ジャイアントクラムの中身をマジックバッグに入れ、殻をゴール目標のために残しておく。
懐中時計を見れば、もうすぐ正午だった。
歩き始めて五分、すでに息は上がっている。息が上がったらペースを落としたが、休むのは三十分経ってからと決めた。それまでは這ってでも前を進む予定だ。
午前中のスコールが嘘かのように、晴天だ。
アルスの肌は白いからか、腕が赤くなっていた。日射病になると困るので、マジックバッグにあった長袖と帽子を被る。暑いが仕方ない。
肩に乗ったヤドが、心配そうに言う。
「初日から無理すんなよ」
「分かっている」
ヤシの木の日陰を使いながらゆっくりと歩く。森の近くに生えている植物は見たことないものばかりだったが、正直それを観察したり拾ったりする余裕はなかった。
ようやく、最初に気が付いた場所近くが見えた。もう少しだ。
ヤドが肩から乗り出し、はさみを差しながら言う。
「あれ、何か落ちてないか?」
「本当だ。なんだろ」
四角の木のようなものが落ちているようだ。少し早足で向かう。
落ちていたものは、椅子と箱の漂着物だった。
息を上げながら懐中時計を確認すれば、丁度三十分経っていた。よし。とりあえず目標達成だ。
木の椅子は、足が一本折れていた。椅子の布地は濡れ汚れていたが高級そうな造りだった。
箱は鍵が掛かっていたが、水を含んだ木の部分はもろくなっており、何度か蹴ると無事に壊れた。中を見れば、片手で持てる大きさの鉱石のようなものがいくつか入っていた。
汚れていた鉱石を海水で洗うと、ビスマス鉱石のような、虹色のグラデーションに発光した幾何学的な鉱石が現れた。他の鉱石も黄色や青い形の整っていないものだった。
「宝石用か?」
「魔物の核だ。それも上位のだ」
「そういえば、真珠のことも核って言っていたな。これって何に使うんだ?」
「俺の知っている使い方は武器や防具、それから戦争の道具に使われていたぞ」
「そうなのか。これ、売れるってことか?」
「まぁ、それなりの額でな」
沈没船か? 箱にも椅子にも持ち主が分かる表示はない。誰の所持品か分からない漂着物なので、貰うことにする。