粗品
翌日、自分のイビキの音で目覚める。
まだ薄暗いが、日の出は始まっていた。
ヤドが不機嫌そうに俺を見下ろしながら言う。
「イビキ野郎、起きたか」
「そんなに酷かったか?」
「ああ、殻に籠ったのに聞こえていたな」
「ごめん」
俺も自分のイビキの音で起きたので、相当うるさかったんだろうな。
「いや……今のアルスのせいではなかったな」
「できるだけ気を付けるよ」
「ここは無人島だ。あまりにうるさいなら遠くで寝るさ」
ヤドの水で顔を洗い、ストレッチをする。足はまだ筋肉痛が続いているが、気分は思ったよりも爽やかだ。これが若さってやつか。
まずは、今日のルーレットからだな。
ルーレットを念じると、昨日と全く同じ選択のルーレットが現れた。小石かタオルか。
タオル、来い! と願いを込め、矢を投げるとタオルに命中する。
「よし!」
『パッパラパー、タオルが当たりました~』
昨日同様に幼女の声がした後に、降ってきたタオルを受け止める。
『また明日も遊んでね!』
ルーレットが消えると、プラスチックに包まれたタオルを裏返すと見慣れた文字が書いてあった。
「日本語……?」
腕によじ登ってきたヤドが、首を傾げながら尋ねる。
「お、タオルが当たったのか。これ、なんて書いてあるんだ?」
「粗品……」
それは、前世の世界にあった、何度も無料でもらっていた一般的な粗品タオルだ。
だが。そんなタオルでもこんな場所で手に入れると、違和感と共に途端に何か高級感まで醸し出す。
朝日が反射する粗品タオルのプラスチックを開けると、中はただのフェイスタオルだった。でも、この匂いや感触がなんだか嬉しくて、少し目に涙を溜めてしまう。
「そんなにこのタオルが嬉しかったのか?」
「これ、俺の前世の世界のものなんだ」
「ほぉ! このルーレットはそんな仕様もあるのか! 一日一回ってのが歯がゆいな」
「その回数、将来的に変わるのか?」
「可能性はあるな」
「そうか。それは朗報だな」
208は分からないことはヤドに聞けと言っていたが、正直このルーレットは分からないことだらけだ。
「208の出したルーレットがこの能力の最高峰だが、アルスは前世のものも交じっているようだな」
208のルーレットは細かく刻まれ過ぎていて、選択肢がよく見えなかった。だが、208がくれた矢は一つだった。一回につき、矢は一本ってのが濃厚だ。でも、投げ続ければ、一日に数回投げられる可能性はあるかもしれない。
とりあえず試しにもう一度ルーレットを念じてみる。
『今日はもう終わりだよ!』
幼女の機械音が流れる。念じてまた現れたということは、これは将来的に一日二回以上投げられるチャンスがあるかもしれない。
「なんだか、楽しくなってきたな」
「楽しんでいるところ悪いが、なんだか空が怪しくないか?」
空を見上げれば、ポツリと水滴が降ってきた。ここで、雨か……ついていないな。