激動の一日の終わりに
一時間も経つと、あの眩暈と吐き気はなんだったのかと思うほど気分がすっきりとしていた。
手を伸ばし、ヤドに声を掛ける。
「じゃあ、始めるぞ」
「無理はすんなよ」
植物魔法の蔓生成を発動、二十ほど蔓を出しても違和感はない。
「まだまだ、行けそうだ」
三十八ほど蔓を生成したところで、背中に悪寒が走った。これがヤドの言っていたゾワッとした感覚なのだろう。確かに、風邪の引き始めのような感覚で、気分は良くない。
蔓を四十ほど出したところで、やや吐き気がした。
前の五十は無理だが、それでも四十はなかなかの数ではないだろうか。
「たぶん、ここが限界だ。これ以上、生成したらまた吐く」
「十分に凄い、いや、アルスの年齢で、鍛錬せずにここまで魔法を出せる人間は少ないぞ」
「そうか」
ヤドが純粋に褒めるので少し照れてしまう。
前世で魔法に関わっていたヤドが褒めるので、アルスの魔力はやはり他よりも高いのだろう。208には思うところがあるが、その辺はちゃんとしたいい身体を探してくれたことに感謝する。
「でも、これが一時間でチャージするのはお得感があるな」
「通常は、攻撃魔法を五発も打てば魔力酔いするもんだ」
「思ったより、その少ないな」
「魔力のエネルギーの出力の関係感も知れないが、その点、セカンダリー魔法は十回以上使える」
セカンダリー魔法を極めれば、コスパがいいということか? まぁ、蔓を四十個生成したとしても、爆発するような魔法が一発でもぶち込まれれば俺が負けるのは目に見えている。コスパよく、上手く使っていく必要があるな。
浜辺に並んだ数十個の蔓を見ながら、ヤドに尋ねる。
「この蔓ってこのままなのか?」
「生成したのだから、そのままだろ」
それは便利だな。将来的にここからの脱出にも使えそうだ。蔓の使い方を多々考えたが、やはり植物操作で動かせるのなら、蔓の使い道の選択肢も広くなる。
「それで植物操作だが、これはどうやって解放できるんだろうな?」
「生成もだが、どうやって操作したいのかをアルスが思考を固めることも重要だ」
「イメージってことか……」
気分がすっきりするのを待ち、蔓を一つ持ち上げ念じながら睨むが何も起きなかった。
ヤドが呆れたように笑う。
「そう一日で習得できるようなもんじゃない」
「だよな……じゃあ、飯にするか! 腹減った」
魚をアイテムバックから取り出すと、ヤドが尋ねる。
「魚はそれで最後だろ? 明日は食糧確保もやらないとな。俺は貝が食いたい」
「……それって共食いじゃ?」
「……違うだろ」
いや、絶対そうだろ!
その晩、日が沈むと辺りは真っ暗になった。ありえないほど真っ暗でなんだか笑ってしまう。時計を見れば、まだ八時を回っていなかった。
身体が若いからか、すでに筋肉痛の痛みが始まった足をマッサージしようと思ったが……
「普通に腹の肉で手が届かねぇ……」
あきらめて砂浜に横になる。満天の星空を眺めていると、ヤドが俺の腹の上に登りそのまま寝落ちした。
ヤドカリって睡眠をとるんだな……
「それにしても、星……綺麗だなぁ」
しばらく星空を眺め、そのまま瞳を閉じた。