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 しばらく行き場のない歯がゆさを砂浜に向かいあたっていたが、大きな腹の音が鳴ったのが聞こえて呆れながら笑う。


「この身体、マジかよ!」


 腹の音、それから自分から発せられる慣れない笑い声で、悶々としていた気持ちはどこかへと飛んで行った。

 ヤドが恐る恐る尋ねる。


「だ、大丈夫か?」

「うん。変に取り乱して悪い。後、助けてくれてありがとう」


 転生して、即、溺れ死ぬとか笑えない。

 膝の上に乗ったヤドが、はさみで殻を掻きながら言う。


「いや、俺もまさかあんなに泳げないと思っていなくてな。悪かった」

「いやいや、ヤドのせいじゃないから。でも、凄いよな。俺も自分の泳げなさにびっくりした。また死ぬかと思った」


 苦笑いをしながら言う。

 前の人生では転んであっけなく死んでしまった。この人生では命大事にしないとな。

 現時点での俺の状況は最悪だ。けれど、考えてみたら食いもんと水はあるんだ。この身体とスキルを鍛えれば、どうにかなるだろう。そう考えないとな。

 懐中時計を見ればすでに十四時をまわろうとしていた。

 まだ心配そうに俺の顔を覗くヤドに笑顔を向け言う。


「飯食うぞ」

「お、おう」


 朝食べた魚を何匹か拾ってアイテムバッグに入れておいてよかった。魚を取り出し、再び焼き魚を頬張る。


「やっぱ美味いな」

「こんな場所に飛ばされて困惑していると思うが、頑張れ――いや、気落ちすんなよ。必ず策はある……はずだから」


 ヤドが言葉を選びながら俺に気を使う。

 こいつのことは正直よく分からないが、悪い奴ではなさそうだ。もし、俺が一人でここに放り込まれていたらと思うと……ヤドがいてくれてよかったと心から思う。見た目はヤドカリだけど、頼りになるヤドカリだ。

 魚を食い終わると、ヤドに向かって宣言する。


「俺、今から身体やスキルを鍛えて自力でこの島から出るからな」

「ああ、俺も手伝うからなんでも言ってくれ!」


 ヤドが胸を張りながら言う。


「そうと決まったらまずスキル、特に魔法を極めたい」


 植物魔法はできれば『葉刀』まではすぐにでも取得したい。心身強化は水中呼吸を、そして、基本魔法の『洗浄』もだ。とりあえず、目標はこれだ。

 体力については走っても息切れしない身体、それから泳ぎは絶対習得しなければならない。泳げないまま海に出るなんて自殺行為だ。俺は今度こそ長生きがしたいんだ。


「体力か……まずはその腹をどうにかしないとな」


 自分の腹を見れば、大事なところも見えないほど脂肪が密集してやがる。

 口角を上げヤドに向かって言う。


「体力は明日からやる」

「なんでだ?」

「今日はもう一歩も動けなそうだからだ」

「それ、得意顔で言うことか!」


 ヤドがはさみを上げながら怒鳴ったが、本気で立ち上がる体力すらないんだ。許してくれ!


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