動けないデブ
島の南を目指し始めて五分もしないうちに、俺は浜辺に座って砂浜を見つめている。
なぜかって?
「体力なさすぎだろ、この体!」
浜辺で一人座りながら叫ぶ。
歩くのが遅いだけではなく、歩いているだけで喘息かと思うほどの息切れをした……この身体は若かったんじゃないのか? これじゃ、まるで爺さんじゃねぇか! いや、その辺の爺さんの方がまだ全然マシだ。体内年齢百歳だろ、この身体。
こんな身体でどうしろっていうんだよ!
しばらく内心で悶絶すると、あきらめたようにため息を吐く。
「痩せるしかないな……」
せめて、歩いても息切れしないように体力をつけるしかない。
「大丈夫か? まだ全然進んでいないが……」
ヤドが独り言を連打する俺を見上げながら尋ねた。
「ああ、もう少し歩く」
立ち上がり足を動かす。せめてこの島の反対側を確認しなければいけない。
それから十五分、俺は再び砂浜に倒れていた。
ヤドが俺の顔を突きながら尋ねる。
「水でも飲むか?」
「ああ、頼む。あと――」
「あと、なんだ?」
「腹減った」
「嘘つけ! さっき食ったばっかりだろ!」
ヤド、分かってる。俺だって分かっているんだ。この体がおかしいんだ!
こんなんじゃこの島で死んでしまう。
気力で立ち上がりもう十分ほど砂浜を歩くと、ようやく反対側に到着した。
綺麗なコバルトブルーの海を見て絶望する。
「他の島もなんもねぇな」
それにこの島、人工物が一切ない。完全に無人島だ。
「どうすんだよ、これ……」
「自力でここから出るしかないな」
「自力って、イカダでも作ってか?」
「それ以外ないだろ」
ヤドは当たり前のことを言っているだけだが、この状況に腹が立ってきた。
大体、イカダって俺が漕ぐんだろうが、この身体にそんな運動五分も持たないぞ。溺れたら――
「そうか! そうだ!」
大声で手を叩きながら喜ぶ。植物魔法、それから心身強化の潜在能力に水中呼吸があった。この二つがあれば、この島から脱出できるはずだ。
ヤドが一人喜ぶあれを見ながら訝しげに尋ねる。
「壊れたか?」
「違う。この島から脱出できる可能性を切り開いただけだ」
ヤドに俺の計画を共有する。
「ああ、確かにそれなら可能だな。だが、それなら俺の水魔法に乗れば海を移動できそうだが」
「なんだ、それ! 本当か!」
「やってみないと分からないが……」
思い立ったが吉日、早速、ヤドのいう水魔法に乗ってみようとするが――
「うわぁぁぁ、助けてくれ!」
なんと、この身体は全く泳げなかったのであった。
前世で俺は泳ぎだけは自信があった。
溺れる寸前でヤドに救出してもらい、濡れたまま砂を握り叫ぶ。
「クソぉぉぉぉ」