とりあえず飯を食う
ルーレットは今後に期待するしかない。当たった小石をポケットに入れると腹が鳴る。
腹空いた……。
「能力も分かったことだ。飯にしよう……ヤドは何を食うんだ?」
「なんでも食えるはずだ」
「ヤドカリなのにか?」
「俺はヤドカリに見えるが、たぶん普通になんでも食えるぞ」
どうやらヤドは普通の生物ではないそうだ。まぁ、見てくれもな派手だが……喋っている時点で普通の生物ではないな。
「なんでも食えるならなら、話は早いな」
さっきの鮮やかな縞々模様の魚をヤドの水で洗い、ナイフと調理具を使って三枚おろしにする。
魚の捌き方を漁師の友達に習っておいてよかった。
魚の身は白魚だった。少し切って塩をつけ、生で食ってみる。
「おお、脂が乗って美味いな。ほら、ヤドも食ってみろ」
魚の切れをヤドに渡すと、あっという間にその小さな体内に消えて行った。
「覚えているより美味いな」
俺も、もう一口、いや二口、三口……アルスの身体の食欲ならこの一匹丸々食えそうな勢いだ。
ヤドと刺身を堪能すると、次の魚は棒に刺す。
「よし、次は焼くか」
白浜に落ちていた漂流物の木を集め、ヤドに水抜きをしてもらう。これなら火が点くはずだ。
基本魔法の火を使い集めた木に点火すれば、思ったよりも簡単に燃え移った。これなら魚もすぐに焼けるだろう。
ぱちぱちと魚が焼ける間、もう一匹捌き同じく棒に刺し焼く。
しゃがんだ体勢が贅肉のせいでつらく、砂浜に座り込んだが腹の肉が邪魔であぐらすらかけない。
「まずはこの腹の肉をどうにかしないとな」
ため息をつけば、腹も一緒になった。
魚の面倒をよく見ながら、生唾を呑む。脂がしたたり落ちる度に、美味そうな匂いが鼻を刺激する。
魚の回りをウロウロしながらヤドが振り向く。
「もう、いいんじゃないか? 食えるんじゃないか?」
子供みたいに尋ねるヤドの姿に口角が上がる。
「もう少しだ。いい色に焦げ目がつけば焼き上がりだ」
「美味そうだな」
これ以上ないタイミングで魚を火から下ろし、マジックバッグに入っていた皿に載せる。
ヤドが待ちきれずに魚の上に乗る。
「おいおい、火傷すんなよ」
「おー、うめぇな」
早速食べ始めたヤドを横目に、大口で魚を頬張る。
「おうふ。焼き魚にしたら味が凝縮されたな。こんなホクホクな魚は知らないぞ」
生も美味かったが、俺は焼き魚の方が好みだった。
一匹を完食すると、腹八分ほどになった。あの魚の大きさで腹八分とは、アルスは今までどれくらい食っていたんだよ。
懐中時計を見れば、午前十時だった。時計を見る限り、時間の概念は地球とは変わらないようだ。
「ヤド、それ食ったら島を確認するぞ。反対側なら何か別の島とか見えるかもしれないからな」
「そうだな。それはいいが……ってアルスは何をしてるんだ?」
「立ちあがろうとしてんだよ!」
贅肉のせいで立ち上がるのも一苦労だったが、島の南へと歩き出した。