超えた存在
ルドウィーク殿下とアリシア様は
執事長のラード様と共に、ステフリーシュ
辺境伯家の別館に移り住みました。
久しぶりに、ゆっくりと過ごせると
ルドウィーク殿下とアリシア様たちは
のんびり過ごしておられます。
と同時に、侍女見習いの女の子、サリィ、
ケリーのふたりも、アリシア様付きとして
そちらに、移動しました。
アリシア様は、見知らぬ、年上のお姉さん
見習い侍女たちにどうしたら良いか戸惑って
いましたが、孤児院でいろんな子どもを見て
育ったサリィ、ケリーは、ちょうど良い距離を
保ちながら、明るく、接している様子。
世話好き、子ども好きなあのふたりを選んで
良かったみたいね。
一気に、賑やかになりました
ステフリーシュ辺境伯家の別館に
ひとりの女性が訪ねて来ました。
このステフリーシュ辺境伯家の女主人
エメライン・フォン・クラウン・
ステフリーシュ辺境伯夫人です。
「うふふふ。ご機嫌よう。
ルドウィーク殿下、フォロス様。」
「お久しぶりです。 エメライン夫人。」
「ええ、久しぶりね。カトリーネちゃんから
聞いた時は驚きましたけれど、ルドウィーク
殿下が、元気そうで良かったわ。」
「はい。 ご心配をおかけしました。」
おっとりとした穏やかな赤の長い髪に水色の
瞳の淑女、エメライン・フォン・クラウン・
ステフリーシュ辺境伯夫人。60歳。
60代とは思えないくらい若々しい彼女こそ、
わたくしのお養母様にあたるお方です。
「うふふ。フォロス様は、初めましてね?
カトリーネちゃんの養母です、エメライン・
フォン・クラウン・ステフリーシュですわ。」
「実は、ルドウィークお兄様や、わたくしの
母方の伯母様です。つまり、わたくし達の
実母、エスメラルダ王妃のお姉様ですね。」
「エスメラルダ王妃様の?確かに、王妃様と
そっくりですね。宜しくお願い致します。」
ルドウィークお兄様とわたくしを含めた5人の
子ども達の御生母、エスメラルダ・フォン・
クラウン・レオシュリーク王妃。53歳。
長兄が33歳、長姉30歳、次姉28歳、
次兄25歳、そして、末妹のわたくしが
18歳と、長兄の王太子殿下とは15歳差。
そのはずなのですが、全員の生母なのです。
末妹のわたくしが、残念ながら、子どもが
出来なかった伯母夫妻の養女となりました。
「フォロス様、貴方は、お兄様の一番弟子
だそうですね?お兄様は、お元気かしら?」
「クラウン侯爵閣下は、相変わらず元気で、
びしびし、しごいて下さりますよ。」
「うふふ。お兄様ったら、相変わらずね。」
王都立騎士団、騎士団長、カイオス・フォン・
リービィー・クラウン侯爵閣下。63歳。
エスメラルダ王妃とお養母様は、騎士団長を
務めているクラウン侯爵閣下の妹です。
「えっ?フォロス様
あのカイオス伯父様の弟子なの!?」
「ええ、はい。 カトリーネ様も
あのクラウン侯爵閣下の姪なんですね。」
クラウン侯爵閣下は、最強兵器と言われる程
お強いお方で、その一番弟子………?
それは、うん、お兄様たちに気に入られても
不思議ではありませんね………!
「カイオス伯父様の一番弟子………
フォロス様って、かなり強いのですか?」
「カトリーネ、かなり強いなんてもんじゃない。
あのカイオス伯父上を超えた存在だ。」
「まあ! 超えた!? そうなのですか!?」
「あら、フォロス様、あのお兄様を超えた
だなんて、凄いじゃないの!」
「ルドウィーク殿下! 私は、まだまだです!
クラウン侯爵閣下の方が強いですよ!?」
慌てているけれど、カイオス伯父様を超えれ
ないと悩んでいるお兄様たちよりも強いなら
それだけでも、凄いのでは………?
なるほど………!それほど、強いお方だから、
ルドウィークお兄様とわたくしの護衛騎士を
兼任するように、宰相の公爵閣下から頼まれた
ということなのね………!
「フォロス様、わたくしの甥と姪を
宜しくお願い致しますね。」
「はい、もちろんです。」
「うふふ。フォロス様!
貴方は、素晴らしいですね!」
「カトリーネ様………
ありがとうございます。」
「フォロス様
今、良いかしら?」
「カトリーネ様!?
本館に戻られたかと!」
「今日は、別館に泊まるつもりよ。」
「ああ、それで、こちらに………
カトリーネ様、私に、何かありましたか?」
お養母様が本館に帰られて
別館の廊下を歩いていましたら、ちょうど、
フォロス様をお見かけして、つい、お声を。
ちょっと、フォロス様と、ゆっくりお話して
みたかっただけですけれど。
「今回の件は、宰相様だけじゃなくて
カイオス伯父様からも頼まれたのかしら?」
「はい。王太子殿下、ルドウィーク殿下、
宰相である私の父、イグナーツ辺境伯閣下
である祖父、師であるクラウン侯爵閣下から
頼まれて参りました。」
「そのメンバーなのね。
姪の、アリシア様の御心が心配だけれど、
マリーナ様の生家は、繋がりがあったのね?」
「はい、ダシュレード侯爵家は、マリーナ様を
含めて、警戒対象として捕まっております。」
「そう。本当に、残念で、悲しいことだわ。
でも、アリシア様が両国の板挟みにならずに
巻き込まれなくて、良かったわ。」
実母から離れて暮らすのは、悲しいこと。
養女に来たわたくしだから分かること。
アリシア様の御心のケアは、これから先
必要になって来るでしょうね。
「はい。ルドウィーク殿下とアリシア様の
居場所は知らされませんが、王太子殿下から
国王陛下、並びに、王妃様に、離縁した後に
休養中とは伝わることでしょう。」
「そうなのね。分かったわ。ありがとう。
わたくしは、ただ、ルドウィークお兄様と
姪のアリシア様の幸福を祈っているわ。」
「カトリーネ様………ありがとうございます。」