孤児院訪問
「フォロス様
おはようございます!」
「カトリーネ様
おはようございます。」
「ご一緒に、孤児院に行きませんか?」
「孤児院に? はい、かしこまりました。」
今日から、フォロス様が、1週間だけですが、
わたくしの護衛騎士となります。
このステフリーシュ辺境伯領の、商店街の
近くに、小さな孤児院があります。
先生が5人、孤児の子どもが12人います。
この孤児院を訪ねるのが日課なのです。
「あ! いらっしゃいませ〜!
カトリーネ様、おはようございます!」
「ふふふ。ミレイ、おはよう。元気ねー。」
孤児院の受付事務の女性、ミレイ・フォン・
ディーセル・カリナー。27歳。
この孤児院で育ち、孤児院に訪れたカリナー
男爵夫妻に気にいられ、養子入りした方です。
とても優しくて面倒見が良いので、受付より
先生向きのタイプなのですけれどね。
「イゼーナ夫人はいらっしゃいますか?」
「いらっしゃいますよ!ご案内します!」
「ええ、ありがとう。宜しくね。」
「あらあら、いらっしゃい。」
「イゼーナ夫人、おはようございます。」
「カトリーネ様、おはようございます。
そちらの護衛騎士さんは?あまり見かけない
顔ですわね。新しく配属されたお方かしら?」
「彼は、新しく、辺境伯家の護衛騎士に
なったばかりのフォロス様よ。宜しくね。」
「ふふふ。フォロス様と言うのですね。」
貴族様だけど、苗字を言われないのならば、
何かしら、あるのだろう。
そう察してくださるのが
こちらの、イゼーナ夫人です。
信用できると判断されまして、辺境伯家は、
この孤児院に支援を送っているのです。
「こちらが、孤児院の院長先生です。」
「初めまして。わたくしは、イゼーナ・
フォン・シュワイエ・トルコワと申します。
フォロス様、宜しくお願い致しますね。」
「トルコワ伯爵夫人、宜しくお願いします。」
「あら、やだ、フォロス様、お詳しいのね!
カトリーネ様みたいに、わたくしのことは、
イゼーナ夫人と呼んで頂戴な?」
「はい、イゼーナ夫人。」
院長先生を長年勤めているイゼーナ夫人は、
御年70歳ながら、生涯現役。
子どもたちのお祖母様代わりの先生であり
ステフリーシュ辺境伯家に代々仕えています
トルコワ伯爵家の当主夫人でもあります。
「イゼーナ院長先生
今回は、ご依頼がありまして」
「あら? いったい、何でしょうか?」
「10歳のサリィ・ローエ
8歳児のケリー・シェスリオ
ステフリーシュ辺境伯家の侍女見習い
として、そろそろ、彼女たちを引き取り
たいのですが、いかがでしょうか?」
「まあ!侍女見習いの件ですね?
彼女たちならば、大丈夫でしょう。
あの子達を宜しくお願い致します。」
「イゼーナ院長先生
ありがとうございます!」
この孤児院を支援する理由には、
騎士見習い、執事見習い、侍女見習い、
料理人見習い、針子見習い、商人見習い
などの様々な人材の確保、育成のためです。
もちろん、孤児院の子どもたちには
希望を聞いています。
今回は、侍女見習い志望の子達を
引き取りたいため、来たのです。
「では、フォロス様
サリィ、ケリーの元へ行きましょうか。」
「はい、かしこまりました。」
「サリィ、ケリー、おはよう。」
「カトリーネ様、いらっしゃいませ!」
「カトリーネ様、おはようございます!」
10歳児の少女サリィと8歳児の少女ケリー。
この子たちに会いに、二人の元に来ました。
彼女たちは、この孤児院の最年長さんなので、
後輩の子たちの面倒を見ているのです。
「こちらは、わたくしの
護衛騎士のひとり、フォロス様よ。」
「初めまして!サリィ・ローエです!
フォロス様、宜しくお願い致します!」
「初めまして!ケリー・シェスリオです!
宜しくお願い致します!」
薄茶色の長髪に、ぱっちりとした水色の目の
可愛いらしい少女、サリィ・ローエ。10歳。
金色の短い髪に切れ長な黒目の美しい少女、
ケリー・シェスリオ。8歳。
真面目かつ、努力家な、姉妹のように育った
孤児院の最年長組の子たちです。
「ふたりとも、よく聞いて頂戴。
貴女たちをステフリーシュ辺境伯邸の侍女
見習いとして、受け入れる事になりました。
後日、辺境伯邸の侍女長に紹介しますから、
引っ越し準備、宜しくお願い致しますね。」
「まあ!本当ですか!?
カトリーネ様、ありがとうございます!」
「カトリーネ様、宜しくお願い致します!」
「フォロス様
今日は、ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。
孤児院の視察、定期的にされているのですね。」
「ええ、最初は、なんとなく、子どもたちが
可愛いから、入り浸っていただけなのだけど。」
優秀な子がいたら引き抜いて、自立を促すのも
わたくしの役目だと思っているわ。
養女として引き取ってくださった養父母への
感謝を込めて、ね。
「あのふたりを、侍女見習いにするのは、
カトリーネ様付きにするためですか?」
「いえ、アリシア様付きよ。」
「アリシア様の………?」
「ええ、ルドウィーク殿下も、
アリシア様も、今は、警戒心が強い時期。
それなら、侍女は子どもの方がいいと思って。
友達のような侍女がいても大丈夫でしょう?」
「カトリーネ様………まだ、お会いしたことの
ない姪御様に、ありがとうございます。」
まだ、4歳なのに、いきなり、実母から
引き離され、実父と共に見知らぬ土地に
来るだなんて、悲しすぎるでしょう?
叔母であるわたくしに懐くか分からないから
せめて、信用ができる侍女に出会えることを
願うしかないのよね。