寒月の夜
ついに、冬がやって来ました。
ステフリーシュ辺境伯領は、雪国と
言っても良いくらい、雪が積もります。
ふわふわと雪が降る中、この時期になると、
家から出ることが大変なくらい、雪が積もり
ますので、それぞれの家庭で、家に籠る準備が
なされています。
ただ、騎士や警備隊などの方々は、真冬だと
しても関係なく、鍛錬、訓練があります。
寒さに慣れていないフォロス様は、これから
真冬の訓練に慣れるために、大変でしょうね。
今日は、フォロス様が、騎士団お休みなので、
のんびりと過ごす日です。
「今夜は、寒いですね。」
「うん、寒いね。体調は大丈夫?」
「ええ。この寒さには慣れていますから。
フォロス様こそ、寒いのではないですか?
こちら、足に掛けるタイプの毛布です。」
「カトリーネ、毛布をありがとう。暖かい。」
このステフリーシュ辺境伯領の寒さに慣れて
いないのでしょう、フォロス様が寒そうです。
そういえば、王都は冬が短めで、イグナーツ
辺境伯領の辺りは夏が長いのでしたね。
わたくしは、慌てて、毛布を持ち込みました。
「フォロス様!
こちらを飲みませんか?」
「それは、もしかして、珈琲豆?」
「はい。イーリス夫人から頂きました。
ロストーゼ伯爵領の名産のひとつなのです。
身体の芯から、温まりますよ?」
「ぜひ、飲もう!」
トルコワ伯爵の嫡孫、ブレイデン様の奥方
イーリス夫人からのお土産です。
わたくし達が王都に行っている間の事です。
親子3人で、ロストーゼ伯爵領に行ってきた
ようなのです。ロストーゼ伯爵に孫息子を
見せるためでしょうね。
「さらに、こちらは、
チーズケーキと紅茶のシフォンケーキです。
我が家の料理長、ダーンの手作りなんですよ!
どうぞ、お召し上がり下さいな。」
「おお!カトリーネは、どちらが良い?」
「わ、わたくしは、シフォンケーキの方を。
え、でも、良いのかしら?」
「もちろん。それなら、私はチーズケーキを。」
「フォロス様、ありがとうございます。」
もちろん。どちらも美味しそうなのですよ。
けれど、やっぱり、紅茶のシフォンケーキが
好きなので、つい、選んでしまいますね。
「あ! アナベラ、この珈琲とケーキの準備を
お願いできるかしら?」
「はい、かしこまりました。ご用意致します。」
「ふふふ。アナベラ、ありがとう。」
「カトリーネ」
「はい、なんでしょう?」
「もし良かったら、春に開催できるように
そろそろ、婚姻式の準備をしないかい?」
「ええ、ぜひ!何から準備したら良いかしら?」
わたくし達は、春に婚姻式を挙げる予定です。
辺境伯領内の婚姻式は、割とシンプルなもの。
ですが、第三王女な辺境伯令嬢と、公爵家の
三男坊の婚姻式なので、かなりお客様は多く
来ると、予想を立てております。
「私たちの衣装は、ランタナ商会のお針子達に
頼んだら、良いんじゃないかな?」
「そうですね! どんな色にしましょうか?
付けるアクセサリーは、紫水晶が良いわ。」
「私の瞳の色を…?ありがとう!嬉しいよ!
薄紫色のドレスに、紫水晶のアクセサリー
という組み合わせはどうかな?」
「まあ! なんて素敵なんでしょう!」
「紫水晶のピアスとネックレスを用意する
つもりだよ、薄紅色に映えると思って。」
「わたくしの髪が、薄紅色で良かったわ!
ありがとうございます!」
人には話さないが、わたくしは、髪色が
コンプレックスなのです。
実父、長兄、長姉は金髪、実母と次兄、次姉、
伯母であるお養母様や伯父様は赤髪………
なぜ、わたくしは、ピンクなのでしょうか?
でも、フォロス様の紫水晶のような瞳の色彩が
映えるのでしたら、嬉しく思いますね!
「フォロス様は、ロイべルート公爵家からの
婿入りを意味する紺のスーツに、金茶色の
わたくしの色のネクタイ、いかがかしら?」
「カトリーネ! 本当に、ありがとう!」
婚約者や、伴侶の瞳の色を、ドレス、スーツ、
アクセサリーにするのが、この王国の習わし。
最愛の、愛する婚約者、伴侶にしかやらない
ような特別な仕来りなのです。フォロス様は、
目を輝かせて、嬉しそうにしています。
「今日は、満月。綺麗ですね。」
「ああ、本当に。月が見えて嬉しいよ。」
今日は、フォロス様が、わたくしの部屋に。
ここから、満月がよく見えるからです。
もちろん、ふたりきりではなく、アナベラと
ご一緒です。アラン様は、久しぶりに、娘の
アレッタと過ごす予定だそうで、不在です。
「貴方は、フォロス・フォン・イグナーツ・
ロイべルート・ステフリーシュになるのよね?
フォロス様、これからも、宜しくね。」
「うん、カトリーネ、ありがとう。愛してる。
春が待ち遠しいよ。本当に、宜しくね。」
「ふふ。フォロス様、ありがとうございます。
私も、愛しています。春が楽しみですね。」