嵐のような
「あら! フォロスさまぁ〜!」
「ええと………
ああ、ポーリーン嬢ですか。
お久しぶりでございます。」
王都立騎士団の内部を歩いていましたら
いきなり、猫撫で声な女騎士が現れました。
女騎士………にしては、小綺麗で、派手な
アクセサリーを付けていますね………?
「聞いたわよ〜!
次期辺境伯になるそうじゃない?
なんで、教えて下さらなかったの?」
「ええ、確かに、次期辺境伯になることが
決まりました。忙しかったものですから」
「フォロス様は、次期騎士団長候補なのに〜
辺境の伯爵家なんて、似合わないわ〜!」
この御方………もしかして、辺境伯家のこと
よく知らないのかしら………?
騎士ならば、国境警備の辺境伯になれるのは
相当な努力が必要なのに、むしろ、褒めて、
素晴らしいですわ〜!の方が良いわよ?
だって、珍しく、あのフォロス様が、かなり
苛立った顔をしていらっしゃるんですよ!?
え、ポーリーン様、気付かないの!?
「ああ、次期騎士団長は、私じゃありません。
君の弟、ディルークになりますよ。」
「まあ!ディルークに言って、辺境伯に
なるのは別の殿方に変わってもらったら、
良いんじゃなくて?」
ああ、そういえば、同じ銀髪碧眼………!
どうやら、この派手な遠慮の無い女騎士は、
ケイティーお義姉様の妹で、ディルーク様の
姉にあたる方、らしいですね?
でも、、、 正直、ケイティーお義姉様にも
ディルーク様にも、似てはおられませんね?
「ステフリーシュ辺境伯令嬢に婿入りして
次期辺境伯になるから、難しいですね。」
「フォロス様が、婿入り………!?」
「ああ、紹介するよ。
ステフリーシュ辺境伯令嬢、カトリーネ。
私の婚約者だ。彼女に婿入りする予定だから
次期騎士団長は、ディルークだよ。」
「………まあ!このお方が!?」
明らかに、フォロス様を狙っていますね?
敵視されているのかしら………?
まあ、睨み付けられても困るだけですが……
「ステフリーシュ辺境伯家?聞いたことは
ありますけれど、そちらは、田舎ですの?」
「海辺にあたる領地です。」
「まあ! 海は見たことがありませんわ。」
王都と比べたら、田舎ではありますけれど
レオシュリーク王国の中で、大都市のひとつ
だと思いますよ?イグナーツ辺境伯領の次に。
実は、フォロス様のお祖父様が治めている
イグナーツ辺境伯領、凄い大都市らしいのよ。
噂でしか知らないですけれど、厄介な隣国に
自国の強さを示す為、なんでしょうね。
「自己紹介して差し上げますわ。
私は、オンタール侯爵が次女、ポーリーン・
フォン・テレイーゼ・オンタールですわ!」
「はい、初めまして。ポーリーン様。
レオシュリークの第三王女、ステフリーシュ
辺境伯の養女、カトリーネ・フォン・リベラ・
レオシュリーク・ステフリーシュと申します。
宜しくお願い致します。」
「えっ!? だ、第三、王女………!?
ってことは、騎士団長様の姪御様………?」
「ええ、はい。今日は、カイオス伯父様に
ご挨拶に参りました。」
「そ、そうなの? 失礼いたしますわ………!」
騎士団長の姪だと気付いた辺りで青ざめて
あわあわと去って行きました。
威勢が良い、割には、呆気なかったですね。
「ええと………
フォロス様、先程の方は?」
「うーん、簡単に言うなら、厄介な幼馴染。
ロレンツォ兄上とケイティー義姉上が幼馴染
同士だから、もれなく、紹介されたんだけど、
毎回、会うたびに、あんな感じなんだよね。」
「まあ!フォロス様にも、厄介な幼馴染が…」
ミリーゼ様より、かなり厄介な気がするわ。
でも、第三王女が相手だと不味いと思って
逃げ足が早いのは、良かったかもしれない。
これで、ポーリーン様が、ねちっこい嫉妬
深いタイプだと、さらに厄介なことに………
「うん?フォロスじゃないか。
久しぶりだなあ!どうしたんだ?」
「ああ、婚約者をご案内していましたら
ポーリーン嬢に絡まれまして………」
「おおう?! それは、災難だったなあ!
って、もしかして、貴女は、カトリーネ!?
おおお!! お久しぶりですなあ!!」
「はい、お久しぶりでございます。ディーノ様。
さっき、久しぶりにカイオス伯父様にご挨拶
してきたところなんですよ。」
クラウン侯爵家の嫡男、ディーノ・フォン・
テレイシュ・クラウン次期侯爵。40歳。
ルドウィークお兄様や、わたくしの、かなり
歳の離れた母方の従兄にあたる騎士です。
35歳にして、やっと、男爵令嬢の女騎士と
結婚して、3歳の男の子の父親だそうですね。
「おお? そうなんか?
フォロスと婚約したんだそうじゃないか!!」
「はい、この度、婚約することになりました。」
「おめでとう!フォロスが義従弟、大歓迎さ!
こいつは、俺の弟分なんだぜ!!」
「ふふふ。祝福を、ありがとうございます。」
「はははっ! 嬉しいねー!」
ニッコニコな従兄のディーノ様。
自分より優秀な、実父の弟子、フォロス様を
弟分として可愛いがれる、その懐の深さ。
その精神が、素晴らしいと思いますね。
「フォロスよー、ポーリーンから、婚約者が
絡まれたことは報告しとけよー?」
「はい、もちろん。さすがに、あのままだと
まずいかと思いますので。」
「はははっ!そんじゃ、俺は、用事あっから!
奥さんと息子を連れて、出掛ける予定なんだ!
時間があったら、話したいんだけどよー!
フォロス、カトリーネ、またな!!」
「はい、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」