幼馴染たち
「カトリーネ様、ご機嫌よう。」
「ミレーゼ様、お久しぶりですね。」
「ええ、本当に、久しぶりね〜!
カトリーネ様ったら、最近、なかなか、
ランタナ商会に来てくれないじゃなーい?
昔は、よく来てくれましたのに〜。」
客間のソファで、優雅に紅茶を飲んで、
艶やかな赤紫の長い髪に朱色の瞳の少女が
にこやかに座って、待っていました。
彼女こそ、ランタナ商会長を兼任しています
ランタナ男爵家の長女、ミレーゼ・フォン・
ルルノ・ディレーイ・ランタナ。18歳。
わたくしの、厄介な幼馴染、二人目ですね。
あ、三人目はいませんから、ご安心を。
「わたくし、先日、
ピーター様から聞きましてよ?」
「何を、お聞きになられたんでしょう?」
「貴女、見知らぬ殿方を
護衛騎士にしているそうじゃない!」
「フォロス様のことですね。」
今、思いましたけれど………
ここには、わたくしの侍女として、
ピーター様の実兄、オイレースト次期伯爵
アラン様の妻、アナベラがいます。
しかも、アナベラは、トルコワ伯爵の孫娘で
次期伯爵のアリヴィアン様の娘にあたります。
ミレーゼ様の想い人のピーター様の義姉が
いるのに、わたくしに、その態度を取るのは
気にしないのかしら………?
おそらく、アナベラ様から、
トルコワ伯爵、オイレースト伯爵に
報告が行くはずですよ?
「その殿方は、どちらに?
アナベラ夫人はいらっしゃるけれど
アラン様も、いないじゃない?」
「今、別の仕事の為、席を外しています。」
「あら、そうなの?顔を見てみたかったわ。」
アラン様も、フォロス様も、おふたりとも
今日は、ルドウィークお兄様のいる別館です。
まさか、わざわざ、前触れも無しに来客が
来るとは思わなかったので………
「そういえば、第二部隊には、その殿方の
紹介に来なかったんですって?」
「あの時は、第一部隊に用事がありまして。
後日、フォロス様に時間が空きましたら
第二部隊にも、紹介しますよ。」
つまり、ピーター様には
近付いて欲しくないけれど
辺境伯令嬢に第二部隊には注目して
欲しい、みたいな………?
わたくしの幼馴染、ふたりとも、なんか、
そうね、わたくしが第三王女だって知ったら
フォロス様が公爵令息だって知ったら………
驚愕、仰天なのではないかしら?
「いずれ、分かることですが、
あのお方は、わたくしの婿養子候補
つまり、婚約者なんですよ。」
「あら、婚約者なの!?
その情報、本当なのね!?」
「はい、もちろん。トルコワ伯爵や
オイレースト伯爵、ラグニース子爵に
先に発表いたしますから、順序的に
ランタナ男爵家には、まだ先になりますが
宜しいでしょうか………?」
「あらあら!
それならば、良くてよ!
ピーター様なら、正式に発表されましたら
わたくしに教えて下さいますもの!」
ぱあああっと
表情が輝いて見えます……!
まあ、ミレーゼ様は、男爵令嬢で、
わたくしは、辺境伯令嬢。ピーター様を
取られまい!としているみたいですね。
ミレーゼ様、もちろん、大丈夫ですよ?
わたくし、ピーター様とは、なんでしょう
価値観でしょうか、合いませんもの。
「わたくしは、ミレーゼ様と
ピーター様を応援していますよ。」
「あらあら! まあまあ! 本当に!?」
「ええ、ですから、前々から、領外の殿方を
婿養子にお迎えしようかと思っていました。」
「それなら、そうとおっしゃって下されば、
ランタナ商会の伝手を使いまして、貴女に
殿方を紹介しましたのに………!」
「今は、婚約者がいますから
ご紹介されるのは、ちょっと………」
「まあ! それもそうですわね!」
ランタナ商会、近くの伯爵家や子爵家くらい
までしか、伝手が無いんじゃ……?
いきなり、次期辺境伯になれるくらいの騎士、
なかなか見つかりませんよ!
急に、次期辺境伯として、辺境伯領立の騎士
団長になれる人は、フォロス様が奇跡なのよ!
フォロス様が、アリヴィアン様や
ピーター様の上司になる予定なのですよ?
大丈夫なのかしら………?
「それなら、正式に、発表がされましたら
ランタナ商会から祝福いたしますわ………!」
「はい、ありがとうございます。」
ミレーゼ様は、分かりやすく、嬉しそうに、
ご自宅に、帰宅いたしました。
その様子を見送りましたアナベラは、ほっと
しておりましたわ。気持ちは分かります。
その翌日の昼過ぎのことです。
今日は、アラン様を護衛騎士として
温室にて、のんびりしていました。
ここは、ステフリーシュ辺境伯家の
ごく一部の関係者しか入れない場所です。
「カトリーネ様………!」
「アナベラ、また、何かあったの?」
「ピーター様が来られたようです!
門番が、相手をして下さっています!」
「あら? もしかして、ミレーゼ様が
ピーター様に話したということかしらね?」
今日の門番担当は、確か、男爵家出身の方。
オイレースト伯爵の孫息子、ピーター様の
相手は、かなり大変でしょうね。
だから、アナベラは、走って来たのでしょう。
「アラン様、わたくしが
わざわざ出る必要は無いわよね?」
「はい、もちろんです。」
ここで、わたくしが出て行ったら、
変な勘違いされてしまうじゃない?
ピーター様は、わたくしを、変に説得を
しようとするつもりなのでしょう?
これ以上、厄介なことが起きたら、困るわ。
フォロス様の出自は、まだ話せないもの。
危機管理能力が足りないと、フォロス様や
家族から、叱られてしまいますし、、、
ここは、わたくしより、ピーター様の実兄で
ピーター様よりも強いアラン様が適任ね!
「アラン様、貴方の
弟さんの説得をお願い出来るかしら?」
「はい、かしこまりました。どのように
弟に伝えたら、宜しいのでしょうか?」
「正式発表は、来月だということ、
わたくしの婚約者であるフォロス様は
侯爵家よりも上のお方だということを
ピーター様にお伝えして下さる?」
「はい、もちろん、そのようにお伝えします!
ピーター! あいつ、何をやってんだ!」
「アラン様、久しぶりに聞いたわ、その口調。
呆れて、本来の口調になっていますよ?」
「あ、すみません! では、失礼しまして。
アナベラ、カトリーネ様を宜しく頼む。」
「はい、かしこまりました。」