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プロポーズを受けて欲しくて(スカイフォード視点)

 アイリス殿が婚約者からぞんざいに扱われていたことは知っている。

 その光景を見たこともある。

 まるで煮湯を飲んだのかと思うほどに辛く、胸が痛かった。

 叶うことなら、床についたその手を掬い上げて、奪い去ってしまおうかと何度思ったことか。


(それが、何だって?婚約破棄だと?)


 アイリス殿からその経緯を聞いて、彼女を抱きしめたくなった。


 自信を失った君に、君は美しいと知って欲しい。

 僕は再び跪いて手を差し伸べた。


「では、アイリス殿。僕は気兼ねなく貴方をお誘いできる。僕に貴方をエスコートさせて下さい」

「…はい、喜んで」


 はにかむ彼女の笑みは、まるで天使のようだ。

 どうにかなりそうな程、僕は抱きしめたい衝動を抑えるのに必死だった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 その日の夕方、祝賀パーティが始まった。

 国賓として紹介を受け、階段を下ってゆく。アイリスと共に。

 この国の貴族だけではなく、ハイラ国の貴族も数名顔が見えた。

 そのたくさんの人の中に、アイリスの"元"婚約者カイン・ベラッド伯爵子息がいる。

 場内のざわめきは、僕に対してだけではなく、アイリスに対しても注がれている。


「あのご令嬢は誰?ハイラ国の方かしら?」「悔しいけれどスカイフォード様とお似合いだわ!」「なんてお美しいのかしら…」


 ため息混じりにそんな声が聞こえる。

 唯一、カインだけは違った。

 アイリスを見て、愕然としている。


(僕の隣にいるのが、アイリス殿と気付いたな)


 なるほど、アイリス殿をほったらかして女遊びしている割には、ちゃんと夢想しているじゃないか。

 考えれば考えるほどに腹が立つ野郎だ。

 僕はわざとカインの前に立った。カインの腕を組んでいる、ケバいどこぞの貴族令嬢は僕を見つめて頬を染めている。

 男が男なら女も女である。

 トラッドの方を見たら呆れているし、場内の誰もが動揺していた。


「はじめまして。君がカイン君だね?僕はスカイフォード・サヴァリアスだ」

「あっ…えっ…あっ…」

「ほう?君は、まともに挨拶もできないのかな?」

「っっっ!!!…お初に、お目にかかります。カイン・ベラッドと申します」

「そう、カイン君。君が婚約破棄してくれたおかげで、アイリス・ドストエス伯爵令嬢をエスコートする夢が叶ったよ、ありがとう」


 カインは、面白いくらいに顔が真っ青になって打ちひしがれている。


「う、嘘でしょう!?」「アイリス様なの!?あれが!?」「何がどうなって!?」


 場内のざわめきが最高潮に達した時、僕はアイリスに向かって膝をついた。


「アイリス・ドストエス伯爵令嬢、ずっと以前から貴方をお慕いしていました。どうか、僕と結婚してください」


 ざわついた場内が、今度はしん、と静まり返った。

 正確にいうと驚きすぎて声が出ない、そんな感じである。

 アイリスの手が震えている。

 僕はその手をきゅっと握って、しっかりとその美しい瞳を見つめた。

 アイリスは僅かに頷いて


「はい。喜んでお受けします」


 僕は手の甲に口付けを落としてから、君を力一杯抱きしめた。

 更に僕は性格が悪いので、アイリスを抱きしめながら、カインの方を見る。

 カインは散々踏み躙った婚約者への未練と後悔に立ち竦むしかなく、その隣の女は、ただ呆けて僕たちを見ていた。


 トラッドが全くといった表情で拍手を始めたので、一斉に拍手が巻き起こる。大袈裟なくらいに手を叩きながら、僕の前まで歩んで肩を組んだ。


「手の届かぬご令嬢が、まさか婚約破棄してるとは…お前は昔からどうしてそう運が味方するんだろうか…」

「ん、愛の勝利と言って欲しいな」


 その時、遠くの方でこちらを不自然に見ている侍女に目が行った。

 その侍女は、人の間を縫って、ずんずんとこちらに近づいてきた。


「死ね!アイリス!!!!」

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