表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

[最終話]幸せへと続く道(新聞記者とアイリスの視点が交互に入れ替わります)

 王女誕生の一報が駆け巡り、ハイラの国は祝賀ムード一色となった。

 王子の場合は紺、王女の場合は薄紅色で祝福するのが慣わしである。


 命名されてから、首が据わるよりも早く王女お披露目のパレードは開催された。


 ゆっくりと王城を出発した白馬が牽引するフロート車に、スカイフォード王太子とアイリス王太子妃が仲睦まじく産まれたばかりの我が子を抱いていた。


「「「わああああ!!!!」」」


 その雨の様な喝采は、王女・ウィンディアに降り注ぐ。


「今後十年は、ウィンディアという名前の女の子が増えることだろう、マルと…」


 新聞記者はパレードの様子を手帳に記した。


(なるほど、スカイフォード王太子殿下のお名前に寄せたのか…。確か空を渡る、という意味だったと思うが…)


 ふむふむ、と思いながらペンを走らせた。


(あれ?確かアイリス王太子妃は、ハイラの新しい風と呼ばれていたよな…)


 しばらく考え込んでから、ぱっと閃いた。


「なるほど!だから風、ウィンディア様だ!!!!」


 ぽんぽんと何度も手を叩いた。





✳︎ ✳︎ ✳︎





「ウィンディアは大人しいのね。ねえ、スカイフォード様、この歓声の中で全然泣かないわ」

「うむ、産まれながらにして、僕なんかよりも王族の気品を持ち合わせている」

「それ、自虐ですか?」

「はっはっは!」


 わあわあと薄紅色の旗を振る民衆に手を振りながら、微笑みあった。


(あら?)


 群衆から少し離れたところで、イサク人の浮浪者が呆然とこちらを見て立ち尽くしていた。


 ハイラは貿易が盛んになって、国際化が進む反面、移民の問題に頭を悩ませている。


(早急に手を打たなければならないわね)


 イサク人の浮浪者は、私をじっと見つめると地面に膝をついた。


(あら…?)


 そして地面に両手をつくと、そのまま伏してしまった。


 それを見て、私はそっと風に囁いた。


「元婚約者様、どうぞ後悔してください」

「…?何か言ったかい?」

「いいえ、何も」


 おでこを突き合わせて、腕の中の幸せを噛み締めた。





✳︎ ✳︎ ✳︎





「おい、邪魔だ!どけよ、イサク!」


 道端に転がったイサクの浮浪者を酒に酔った男が蹴り飛ばした。


「最近多いなあ。…次の記事のためにメモしておくか。イサクの移民問題はこれから解消していかなければならない最重要事項である、マルと」


 いつの間にか這ってきた浮浪者は、新聞記者の足を掴んだ。


「おい、何書いてるんだよ」

「うわ!やめろ!!」


 その男は、無理やりに記者の手帳を奪うと、スラスラとその字を読んだ。


「…お前、字が…読めるのか?」

「僕はなぁ!貴族なんだぞ!!こんな…こんなもの!!!」

「あああ!!何をするんだ!」


 手帳をめちゃくちゃに破くと地面に叩きつけた。

 新聞記者は、男を思い切り殴りつけて破れた手帳をかき集めた。

 殴られた男は蹲って呻いた。


「アイリス……っっっ!!!くそぉ!!!」


 がんがんと地面を拳で殴りつけて咽び泣いている。

 気味が悪くなった新聞記者は、それ以上関わるのをやめて立ち去った。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 まだ残った紙片が春風に舞って、その様子をフロート車からじっと見ていたアイリスの目に、一層その男を惨めに映した。


(言ったでしょう、もうお互いの人生で道が交差することはないと)


 パレードの列は、幸せが降り注ぐ道をただひたすら未来へと進んで行った。

本編最終話です。

面白かった!と思ったら、

ぜひ広告下の評価を【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】→【★★★★★】にしていただけたらモチベーションがアップします!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ