新しい、いのち
それから三年の月日が経った。
私は相変わらず、貿易や店舗の経営、それから王太子妃としての職務に奔走する毎日を送っている。
「ああ!シャイニー、今日も何て愛らしいのかしら!」
「見ろ!こんなに小さな指に、ビーズより小さな爪がついているぞ!」
スカイフォード様も、私も、産まれたばかりのシャイニーにベタ惚れである。きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐ大人を、きょとんとした目で新生児が見つめ返してくる。
「お二人とも、もう少し小さな声でお願いできませんか…」
ちょっと疲れた顔のフォンミーが窘めた。
「うっ…ごめんなさい。あんまり可愛くて、つい…」
「フォンミーとランナイの子どもなんだから、僕たちの子どもみたいなもんだし…」
「そういえば、ランナイさんは?」
フォンミーは、産後の怠そうな身体を何とか起こしている。
「私がいない間、イェット・パレットで売り子をするのだと張り切っておりました。恐らく、今頃品出しでもしているのでしょう」
フォンミーには夢があったらしい。それは、化粧品を扱う店で働きたいということ。
それを知って、ウシナから輸入した化粧品を販売するにあたり、店舗運営はフォンミーに任せる事にしたのである。
もともと、とてもメイクが上手な彼女は、化粧品を売るだけではなく、メイク方法などを丁寧に教えてくれると評判になり、毎日客足は絶えない。
けれど…
「ランナイさんが店頭に立ってどうするの…?」
「いえ!それが意外と好評なんです!」
「まあ、それはなぜ?」
「男性目線で選んでくれるってありませんでしょう?殿方と一緒に化粧品を選びたい女性って結構多いんですよ。でも、そういう男性は残念ながらなかなかおりません。大体店の前で待っているか、カフェで暇を潰すか…」
「なるほど!!二店舗目を出す時の参考にさせてもらうわ!」
しかし、飴作りやキャンディスの供給が止まっているとは聞かないし、ランナイさんの身体も心配である。
「…子どもができるって大変だけれど、フォンミーもランナイさんも、今が一番生き生きしているわ」
「…アイリス様も、もうすぐそうなるではないですか」
すっかり大きくなった自分のお腹を撫でた。
「フォンミーのこと、すごく尊敬するわ。我が子に早く会いたいけれど、実はその分だけ不安も大きいの…」
「分かります。私も怖かったですから」
「やっぱり、痛いの、よね?」
「それはもう痛いですよ!木から落ちて足を折った時の比ではありませんでした!」
「…あなた、意外とお転婆だったのね」
「あっ…」
顔を赤くして頬を押さえている。以前ではこんなに感情を表に出す彼女は見たことがなかった。母親になって良い意味ですごく変わった気がする。
「僕がその不安を取り除いてあげたいのだが…」
お腹に当てた手に、後ろから大きな手が重なった。
不思議と胸に安らぎが訪れる。
「…こうしてくれるだけで、十分ですわ」
「アイリス」
ふふふ、と微笑みあっていると、フォンミーが制した。
「ごほん!お二人とも、仲がいいのは宜しいですが、ここでいちゃつかないでください!」
「あらやだ、私ったら…」
スカイフォード様は咳払いをして、そっと腰に手を回してくれた。
どうしても反り腰になって痛むので、気遣ってくれたのだろう。
腰は温かいし、いつの間にか眠ってしまったシャイニーにつられて、こちらまで眠くなってくる。
スカイフォード様はそれに気がついて小声で言った。
「眠ってしまったみたいだから、僕たちは失礼するよ。フォンミーも今のうちに休むと良い」
「お気遣いに感謝申し上げます」
出産祝いのベビー服を渡して、その場を後にした。
扉を閉めた途端、耳元で「くちづけがしたい」と言われたので、囁かれた方の耳を押さえた。
心臓がバクバクする。
「きゅ、急に何です!?」
「君を担いで走って帰りたいくらいだ」
「だめです!嫌です!」
すたすたと歩き出すと、後ろから追いかけてきた。
「おいおい、大丈夫なのか!?心配になる…」
「お気持ちは嬉しいですが、産婆からもなるべく歩きなさいと言われております」
くちづけなど口実である。スカイフォード様は優しいのだ。
いつも自信に満ちた彼が、オロオロしている姿はなんとも微笑ましかった。
次回、最終話です。
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