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カイン様が腕を組んで歩いているのは…(中盤、カイン視点)

 サン・ルシェロの作品を全て読み終わった時、あることに気がついた。

 多くはないが、時々不自然な改行が見られるのだ。

 ぶつかって原稿が散乱した『マーメイド号の行方』については、あの時落ちた原稿に不自然な改行が見られたのを記憶しているので、乱丁などではなく故意ということになる。

 これは何かの暗号だろうか、とそう気がついて、ある法則に則ってそれを解いてみた。


 朝日の出現とともに、瓶底眼鏡をおでこまで引き上げて見た、出来上がったその文章にはとんでもない事実が隠されていた。

 私は、いても立ってもいられず、出版社へ手紙を書いた。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 なんだよ。アイリスのやつ、あれからなんの音沙汰もない。

 毎週来ていた手紙は途絶えたし、聖女の感謝祭が明日に迫っているというのに誘っても来ない。


「別に、アイリスと行かなくても良いけど」


 そうだ、結婚前に派手に遊ばなくては勿体無い。

 結婚したって相手がアイリスじゃあ、誰に自慢することもできない。

 そもそも夫婦生活を想像したことすらない。

「うーむ」と、試しに想像をめぐらしてみる。


 行ってきますのくちづけ。綺麗な桜色の唇。

 ただいまのくちづけ。大きな瞳に僕が映る。

 夜は…。


(意外と肌は綺麗なんだよな)


 でも相手はやっぱりあの野暮ったいアイリスだ。


(…やはり、ため息しか出ないな)


 なんでちょっとドキドキしているのか、僕はバカじゃないのだろうか。


 あちらから誘いがない以上、僕から誘うなんて絶対に嫌である。

 アイリスが纏めたファイルのお陰で留年を免れたから、褒美に出店で適当なアクセサリーでも買ってやろうなどと思っていたのに。





✳︎ ✳︎ ✳︎





 一週間そわそわ待った甲斐があって、なんと出版社から返事が来た。

 早速封を開けて見ると、便箋と、中にはもう一つ封筒が入っていた。

 便箋には『アイリス・ドストエス伯爵令嬢様 お預かりしたファンレターをサン・ルシェロ先生にお渡ししたところ、返信がありましたので同封いたしました。』と書いてあって驚愕した。


 あまりのことに、よろよろと鏡台に手をついて思考する。


(待って!?サン・ルシェロ先生からの手紙!?)


 どうして良いか分からずに、サン・ルシェロからだという封筒を握りしめて、思わず屋敷から飛び出した。

 どきどきを紛らわせる。


(どうしましょう!か、開封できない!)


 まるで何かから隠れるように庭園の茂みの隅で丸くなった。

 スッと誰かが横切る。


(あれは、テレサ?)


 ちょっと背伸びした普段着で、屋敷の外に出ようとしていた。

 胸にはあの小鳥のブローチが光っている。

 それで(あっ!)と思い出す。

 今日は聖女の感謝祭だ。


(やってしまった!結局、カイン様にお誘いの手紙を出していない…)


 浮き足立っているテレサが屋敷の外に出ると、「遅いよ」と声がした。見ればそれは


(カイン様!?)


 二人は親しげに腕を組んで、楽しそうに行ってしまった。


(カイン様、テレサはダメよ…どうして…)

 という気持ちと

(テレサ、貴方どんな気持ちで私の話を聞き、私に化粧をしていたの)

 という気持ちがぶつかった

 あまりの衝撃に、二人に見つからないよう口元を押さえた。


(…待って、なんで私が息を潜めるみたいなこと、してるの?なんであの人たちは堂々と歩けるの?)


 もうダメだ、耐えられそうにない。

 震えてしまって、立ち上がるのに随分と時間を要した。


 その日、私は父に婚約破棄のお願いを申し出た。

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