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誓いの言葉は…

 待ち侘びた今日という日。

 私はハイラの王太子妃となる。

 それはつまりスカイフォード様の妻になるということで…


「アイリス様、お顔を引き締めてください。全然化粧ができません」

「わ、わわわ、分かっているわ!分かっているのだけれど…どうにも…ふふ」


 ふにぁーっと日向ぼっこの猫よろしく顔が液化している。

 幸せすぎて蕩けてしまいそう。


「失礼するよ」

「スカイフォード様…わあっ!」


 いつもは降ろしている髪の毛を後ろに撫で付けて、白い婚礼服はスタイルの良いスカイフォード様をより王子様然と輝かせている。


「素敵です、とっても…」


 見つめあって抱き寄せられたが、フォンミーがそれを制した。


「アイリス様はご準備が整っておりませんので、スカイフォード殿下はご退出ください」

「なんだよ!見せてくれても良いんだぞ!」

「なりません」


 扉の音がバン!と響く。スカイフォード様はさっさと追い出されてしまった。


「全く、花嫁の支度を見たいだなんて信じられませんわ。アイリス様も厳しく言ってくれなくては困ります」

「ふふふ、そうね」

「どうしてアイリス様は、ビジネスに関してはキビキビテキパキ猪突猛進なのに、スカイフォード様にはゆるゆる甘々なのですか」

「そう?そうかしら」


 瞼の上を筆が滑っていく。

 この日のために新調したアイシャドウは、ウシナ国からの新しい輸入品として考えている。

 せっかくランナイさんを探しにウシナに行ったのだから、ただで帰るのはもったいなかったので市場調査も兼ねていたのだ。


「アイリス様の猪突猛進のお陰で、ハイラは少しずつ変わってきているのですけれど…。今ではアイリス様を応援する声が高まっているのですから。国王陛下や王妃殿下の心配は杞憂に終わったと考えて良いでしょう」

「ハイラが沢山の国と交流を持つことが、私に課せられた使命なのだと思ったの」


 すると、フォンミーは急にかしこまった。


「…その節は…」

「もう良いのよ、今の私があるのは、フォンミーのお陰だもの」


 唇にルージュが乗り、顔色を明るく華やかにした。

 本当にフォンミーのメイクアップ技術は群を抜いて優れていると思う。


「さあ、できあがりました。スカイフォード殿下に見せて差し上げて下さい」


 扉を開けると、廊下の窓にもたれて何か考え事をしている面差しがあった。

 ゆっくりと私に眼差しが向けられると、暫く呆けてそれからぽろりと涙をこぼした。


「スカイフォード様!?どうされたのですか!?」

「…君が、あんまり綺麗で…。信じられない…天が降りてきたみたいだ」


 柔らかく包み込むように抱きしめられると、顔を赤くして「ちょっとだけフライングしても良いかな」と私のおでこにくちづけしてくれた。


(こんな表情、ずるい…)


「さあ、行こうか」


 グローブ越しでも分かる、がっしりした手を握って、光指すチャペルへと歩んでいった。





✳︎ ✳︎ ✳︎





「アイリス・ドストエス、汝はスカイフォード・サヴァリアスを夫として迎え、生涯愛しぬくと誓いますか?」

「はい、誓います」

「スカイフォード・サヴァリアス、汝はアイリス・ドストエスを妻として迎え、生涯愛しぬくと誓いますか?」

「……」

「スカイフォード・サヴァリアス…?」

「…足りん!!そんな言葉では全く足りん!!」


(えええええええ!?)


 会場中に雷でも落ちたかのような衝撃が走る。

 スカイフォード様は胸に手を当て跪いて、誓った。騒めきの声は消えない。


「アイリス・ドストエス…僕は君がいなければ1秒だって生きてはいられない。僕は君に降りかかる凡ゆる困難を振り払おう。僕の行いは、全て君への愛ゆえである。強く、深く、君を愛している」


 牧師は苦笑いしつつも拍手した。それに釣られて、会場中が温かい拍手に包まれる。

 そこにはイサクから駆けつけてくれた家族の姿もあった。

 国王陛下はほっと安堵のため息をついて、王妃殿下は手を高く上げて大きな拍手を送ってくれた。


「はい!よろしくおねがいします、旦那様」


 スカイフォード様は微笑むと、柔らかなくちづけをくれた。屋内なのに、なぜか風が起こる。目を開けると、金箔が降り注ぐかのようにキラキラしている。


(誰も、気がついていない?)


 どうやらそれは、私だけが感じているようだった。スカイフォード様が起こしたものなのだろうか。

 スカイフォード様から、小さな囁きがぽつりと聞こえた。


「…ハイラの神よ、呪われし僕の血を有効に使わせてもらおう」


(あっ…それは…)


 ずっと聞けず終いだったスカイフォード様の真相は、ハイラの神と何か関係があるのだろうか。

 考えれば考えるほどに分からない。


 それから披露宴が終わるまで、私の眉間には皺が寄っていたらしい。

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