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フォンミーさん(ランナイ視点)

 いくら潔白が証明されたとはいえ、元殺人犯として知られた男が作った飴なぞ、誰が買うのかと思っていたが


『ランナイさんの自叙伝を出版しましょう!』


 というアイリス様のご提案に、俺は面食らってしまった。飴を売るのと何の関係があるのだ。

 なにより、


『文章なんて細かい事分からねぇよ』


 とささやかな抵抗をしてみる。


『大丈夫です!!大作家先生がついてますから!!』


 それで紹介されたのが、スカイフォード王太子殿下だった。なぜ王太子殿下が?と思ったが、どうやら出版経験がおありらしい。

 だからといって、小庶民の俺に一国の王太子ともあろう方が、文章のご指導など気が引けるので固辞したが、なぜか王太子殿下は俄然やる気だった。

 昼夜を問わずびしびしと指導していただき、なんとか出版にこぎ着けたのだが


(俺は飴を作りに来たんだよな…?)


 という思いだけは消えなかった。

 しかし、スカイフォード様の口利きでいざ出版してみると、周りの反応が応援に変わっていった。

 それはまるでオセロが綺麗に黒から白へ転じるような様だった。

 そうして満を持してショコラ・ビッテで飴細工の販売が開始となったのだ。

 自叙伝の出版で話題となった飴細工は、みるみるうちに売れていった。

 最近のハイラは輸出のみならず、輸入にも力を入れていると聞く。ハイラ産の砂糖きびを使っていることもあってか、貿易商の手土産としてハイビスカスや熱帯魚の飴は良く売れた。


 こうして口コミは口コミを呼び、ショコラ・ビッテはめでたく二号店を出店することになったのである。

 それで、本日はその開店記念のパーティーに呼ばれたわけなのだが、こういう場は初めてなので全く落ち着かない。

 というか、完全に浮いている気がする。


(どうすればいいんだ…)


 次から次へと声をかけられて愛想良くしてみるものの、俺のような庶民の言葉なぞ耳障りなのだろうか、皆おかしな顔をして去っていく。

 そんな俺を見ていたフォンミーというアイリス様付きの侍女が、そそっと近づいて来て言った。


「…ボタン、掛け違えてますよ」

「え!?あ!」

「私の後ろに隠れて、どうぞお直し下さい」


 こそこそとボタンを直しながら思う。なんだ、みんなの怪訝そうな顔はこれか、と。

 長い逃亡生活で、どうも人の目に敏感になりすぎている。


「…すまない、フォンミーさん、助かった」

「いえ、お気になさらず」

「あんたはアイリス様とは長いのかい?」

「いえ、数ヶ月の付き合いです」

「へえ、そうかい。変わってるよな、あんたんとこの主人は」

「ええ、とっても」

「あんたもなにかあったのかい?」

「アイリス様が初めて来た時、あんまりにもお仕えしたくないもので、嫌がらせをしたんですよ」

「…アンタ、やるな…よく知らねぇけど、そういうの鞭打ちじゃすまねぇんだろ?」

「そうなんです!なのに、アイリス様は私を側に置き続けたんですよ!信じられない!お互いムキになってたんでしょうね」

「はっはっは!!!アンタもアイリス様もどっこいどっこいだな!」

「けれどある時、アイリス様はとあるご婦人が飲もうとしていたカップを叩き落としたんです。それには毒が入っていた。私がアイリス様に「他のシャンパンより泡立っている」と言ったたった一言だけで叩き落としたんです」

「…へえ、フォンミーさん、あんたよっぽど信頼されてるんだな」

「ええ、私は幸せ者です」

「良いご主人をもったな」


 あまり多くは会ったことがないけれど、この侍女と心が通じ合った気がした。


「あら!ランナイさん、フォンミー、何を話していたの?」


 来客への挨拶を終えたアイリス様が、ひょこりと顔を出した。

 フォンミーはふっと微笑んだ顔をすぐに引き締める。


「アイリス様のことです」

「え!私の!?フォンミー…あなたよからぬ事を吹き込んでいないでしょうね!?」

「さて、どうでしょうか」

「フォンミー!!」


 フォンミーは俺を横目で見ると、ぱちりとウィンクした。

 そんなやりとりを見て、故郷の風にぽつりと呟く。


「ハイラはこれからどんどん良くなっていくんだなあ。俺はそれを見届けてぇよ」

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